判例 ストーカー行為で懲戒は合法 (2008年3月号より抜粋)  
   

 

 
 

会社の信頼を貶めた 処分の公表にも問題ない

テレビでは、振り向いてくれない異性をつけ回した男女が、悲劇的な結末に至る事件が、画面をにぎわせています。勤務先が報道されれば組織の名にキズが付きますから、会社としても対策を講じたいところですが、恋愛は個人の自由です。本事件で、会社はストー力ー行為を行った従業員を懲戒休職としましたが、裁判所は処分に違法性はないと判示しました。

X社事件 東京地方裁判所(平19.4.27判決)


追い回される相手が恐怖を感じ、警察に相談するといった状態を、果たして「恋愛」と呼べるのか疑問は残ります。しかし、一途な片思いとストーカーの境界線は、実はあいまいです。不倫等の問題も含め、会社は私的生活空問に口を出さないのが原則です。

しかし、大半の会社の就業規則では、「社員としてふさわしくない行為」があったとき懲戒の対象とすると定めています。現実に、懲戒解雇等の処分も行われています、ストーカーという現象自体は現代的なものですが、それを処理する枠組みは、従来から既に存在します。一般に、「社外非行」の問題と呼ばれています。

過去の最高裁判例(国鉄中国支社事件、昭49.2.28)でも、「職場外でされた職務遂行に関係のない行為でも、企業秩序に直接の関連を有するものもあり、また、企業は社会において活動するものであるから、その評価の低下につながるおそれがある所為については、規制の対象とすることが許される」と述べています。

本事件は、ストーカー行為を行ったのは放送会社の社員で、対象となったのはマスコミに興味を持ち、ボランティアで番組作成に協力した女子学生でした。社員の行動は、「嫌われているにもかかわらず性的な言動に及んだ上、女子学生から接触を拒絶する旨告げられたにもかかわらず、異常な言動を繰り返し、強要威迫的言辞を弄し、その家族にまで恐怖心を抱かせた」という常軌を逸したものです。

裁判所は、「マスコミの一員という地位を利用して、女子学生と接触を図った点、過去にトラブルを起こし、「今後、同様のことを犯すようなことがありましたら、辞表を提出する覚悟でございます」などと誓約していた状況等を考慮すれば、本件処分は他事例と比較して格別不合理な取扱とは認められない」と判断しました。

従業員は処分の効力を争うばかりでなく、処分を社内に公示(掲示板に文書公開)した点も問題として、慰謝料を請求しました。個人情報保護法の関係もあって、従業員に不利な情報の開示には及び腰の企業も増えています。

しかし、判決文では、「懲戒処分は、不都合な行為があった場合にこれを戒め、再発なきを期すものであることを考えると、社内に知らしめ、注意を喚起することは、著しく不相当な方法によるのでない限り何ら不当なものとはいえない」と述べています。本件は懲戒休職ですから、懲戒処分とは軽重が違いますが、それでも名前を出しても違法に当たらないという当然の結論が示されました。


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