判例 能力不足で解雇は無理 (2008年4月号より抜粋)  
   

 

 
 

パソコンを使えないから解雇は無理 日常業務で習得が可能

社員を採用したものの、期待した能力レベルと程遠いというのは、珍しい話てはありません。商品なら返品ですが、人間が相手の場舎、慎重な対応が求められます。本事件は、「パソコンによる日報作成」要員として募集したにもかかわらず、パソコンを使えなかった社員を解雇したケースです。裁判所は、「日常の作業を通して習熟可能」と述べて、処分を無効としました。

A運輸事件 東京地方裁判所(平19.3.13判決)


能力不足を理由とする解雇は、会社側にも弱みがあります。書類を審査し、面談し、「この人物ならOK」と判断したのは会社の経営者・幹部自身です。後から、「期待はずれ」と非難しても、自分にも責任の一端があります。ですから、高度専門職などは別として、裁判所は「メガネ違い」を理由とする解雇には、厳しい姿勢で臨む傾向があります。しかし、高度専門職以外は、まったく知識・技術がなくてもいいという意味ではありません。物には限度があります。

本事件では、「運送事業の営業所で、事務が繁多となったため、事務を専門的に担当するただ一人の従業員としてAを課用した。会社はAに対して、パソコンで積載重量表、給油記録表、ハイウェイカード管理表等を作成する作業を担当させる予定だった。しかし、採用後まもなく、Aにはパソコンを活用する技術がないことが判明し、予定担当作業は他の従業員が分担した」という笑うに笑えない状況が発生しました。会社としては、「物の限度」を超えた背信行為とみなし、最終的に解雇を決断するに至ったわけです。

裁判所は、「Aには、会社が採用にあたって期待していた程度の事務処理能力を有していなかった」事実は肯定しました。しかし、「入社当初も、配送記録表を手書きで作成し、特段の支障が生じていなかった。2ヵ月後からは、パソコン操作の技術にも一定の向上があったといえる」と述べ、解雇当時の時点では、Aの「勤務成績が不良で就業に適さない」とは認められないと断じました。結論は、解雇無効です。

パソコン技術は日進月歩で進歩し、今や「専門技能」といえなくなっています。判決文でも、「配送記録表の作成レベルは、日常の作業を通じて習熟することが可能な性質のもの」と評しています。入社時点でパソコンを使えなくても、問題はそれほど大きくないと判断したようです。

実際、会社はパソコンの知識不足のほか、「指示した仕事を拒否した」「他の従業員の手伝いを拒んだ」点も、解雇理由としてあげています。どちらかといえば、「職場内不和の原因なので、排除したい。という方が本音なのかもしれません。裁判所も、「Aの勤務態度は、他の従業員から真剣さが感じられず、職場の雰囲気を悪くすると指摘されるものであって、本人にも落ち度がある」と述べ、慰謝料の請求は斥けました。

それはともかく、本事件からは、能力不足を理由とする解雇の難しさを学ぶべきでしょう。


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