懲戒の前段階の自宅待機 (2008年8月号より抜粋)  
     
 

不始末で自宅待機中も会社は賃金支払い義務を免れないのでしょうか?

 

Q

社員が重大な非違行為を起こしたため、懲罰委員会を開いたうえで、最終的に懲戒解雇する決定を下しました。処分が決まるまで、本人は自宅で謹慎していたのですが、「会社には、謹慎中も賃金を支払う義務がある」と持論を述べ立てます。そんな常識外れの主張が、まかり通るのでしょうか。

 

 
 
A

出勤停止と異なり、賃金を支払う義務あり

会社側が「常識外れの主張」と感じるのは、「不祥事を起こして、自宅で謹慎するのは当然だ」という思い込みがあるからでしょう。しかし、「処分が決まるまで自宅で待機する」のは、懲戒の1パターンである「出勤停止」とは異なります。

懲戒規定に基づき「出勤停止」という処分が下されれば、賃金を支払う義務は生じません。従業員が不満なら、出勤停止命令そのものの合理性・有効性をめぐって争うことになります。

しかし、処分が決まるまで「自宅で待機させる」のは、懲戒処分ではありません。仮に懲戒として自宅待機を命じたのであれば、「一事不再理(判決が確定した事件については再起訴は認められないという刑事訴訟上の取扱)」の原則があるので、さらに懲罰委員会を開いて、懲戒解雇を科すことはできない理屈になります。

解雇や懲戒の前置手段として自宅謹慎(待機)を命じた場合の扱いについては、「労働者には就労請求権がないので、賃金を支払う限りは、就業規則における明示の根拠なしにそのような命令を発する権限がある」(菅野和夫「労働法」)と解されています。つまり、「出社を禁じる」ことは可能ですが、賃金の支払いは必要なのです。

例外として、「事故再発や証拠隠滅のおそれ」等があるなど、出社を認めない実質的理由が存在すれば、無給とすることができます。出社を不適当とみなす理由については、裁判所は厳格に判断する傾向があるようです。例として、S物流事件(東京地判平15・5・23)をみてみましょう。電車内で痴漢行為を働き、起訴された社員が、保釈されました。労務提供は可能だったわけですが、会社は従業員を休職処分としました。しかも、「本人が自ら招いた犯罪の嫌疑により起訴されたのだから、本人の責めに帰すべき休職」にあたるという理由で、無給扱いとしました。この会社の判断は、貴社のいう「常識」に近いでしょう。

しかし、裁判所は「通勤可能な範囲で女性が極めて少ない部門があり、単純作業を行う要員需要があったから、そうした配置転換を実施することにより就労させるべきだった」と述べ、休職中の賃金支払いを命じました。会社側が「出勤の禁止は正当」と早とちりし、無給扱いとした場合、従業員側は、民法第536条第2項に基づき、賃金支払いを請求することができます。

同項では、「債権者(会社)の責めにより債務(労務提供)を履行できなくなったときは、債務者(従業員)は反対給付(賃金)を受ける権利を失わない」と規定しています。

 

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