判例 支店長の時間外請求を斥ける (2008年10月号より抜粋)
管理監督者に該当 「名ばかり」とは言えず
「名ばかり管理職」が社会問題となるなか、自社の管理職が「造反」する可能性がないか、十分存チェックが必要です。しかし、管理職が訴えを起こせば、必す勝てるものてもありません。証券会社の支店長が割増賃金を求めて争った事案ては、裁判所は「経営者と一体の立場にあった」と述べ、労働者側敗訴という判断を下しました。
日本F証券事件 大阪地方裁判所(平20.2.8判決)
ハンバーガー・ショップの大手企業のケースでは、小規模店舗の店長が「自分は管理職ではない」と訴えて、勝訴しました(地裁の」審段階。会社側は控訴)。
管理職か否かは、「資格及び名称にとらわれることなく」判断します(昭63.3.14基発第150号)。ですから、店長だから必ず裁判に勝てるとも限りません。
本事件では、証券会杜の大阪支店長を務めた社員が裁判を起こしました。30人もの部下を束ねる地位にいた人が、なぜ裁判を起こすのか、経営者にとっては驚天動地の出来事ですが、「限界を画する」という意味で興味深い判例といえます。
元杜員は、自分が管理職に該当しない(と考える)理由として、「支店長とは名ばかりで、仕事は副社長の指示によるものであって、何の権限も与えられていなかった」「新聞の購読すら支店長が自由に決定できないなど経費に対する裁量性が著しく乏しかった」と述べています。ご本人は、割増賃金の未払いよりは、ポストに見合う権限の委譲が不十分という問題に、より力点を置いて争っているようにもみえます。
裁判所は、辛抱強く、冷静に、元従業員の主張に反駁を加えていきます。「副社長の了解を得ているとはいっても、経営方針の設定や杜員の配置等についての実質的な決定権限は支店長にあった」、「中途採用の場合、採否についての実質的な決定権限は(現地で)面接を実施する支店長にあった」等の事実に基づき、「経営者と一体的な立場にある管理監督者に当たる」と認定しました。
本人が「降格処分を受けた」ことも、「自らに人事権がなかった証拠にはならず、部下の営業成績が悪かったことに対する責任を問われたもので、かえって支店長に経営責任と労務管理貢任があったことを裏付ける」と述べている点は、世間常識にも合致します。
待遇面では、月25万円の職責手当を受け、月額82万円に達していたというのですから、証券会杜のなかでも高給取りだったことが分かります(実際、社内では上位5%前後に位置づけられていました)。
結論的には、会杜側の圧勝に終わっています。しかし、「経営者と一体的な立場にある」と認定された社員が、「自分の意見がまったく上に通らない」という疎外感を感じていた点は、考えさせられます。