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採用内定の法的意義 (2009年4月号より抜粋) | |
別会社在籍者を引き抜く場合、退職前に「労働契約成立」で問題ないか? |
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Q |
別会社から、優秀な人材を引き抜く話がまとまりつつあります。「採用の話は、内定しました」と相手に伝えたところ、内定とはどういう意味なのかと念を押されて、ことばに詰まってしまいました。まだ他の会社に在籍中の社員と、内定とはいえ、秘密裏に労働契約を交わしてよいものなのでしょうか。 |
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A |
労働契約不成立の条件つきで締結するのが安全 景気が急速に冷え込み、大卒者の内定取消が増えています。採用内定は、一般に「始期付解約権留保付労働契約」と解されています(大日本印刷事件、最判昭54.7.20)。入社日を決め、採用を約束するけれど、一定の理由があれば解約する権利を留保する契約という意味です。 「内定」というと、正式な契約を結ぶ一段階前という感じを受けますが、採用内定通知を出した時点で、既に契約は法律的に成立しているのです。だからこそ、一方的に内定を取り消した企業を非難するような論調が、マスコミで主流を占めるわけです。 ご質問は、新卒者でなく、他企業で現に働いている方を対象に、内定を出すというケースです。引き抜かれる側にとっては、「必ず採用してもらえる」という約束を取り付けなければ、怖くて辞表を出せません。 一方で、会社の就業規則には、懲戒解雇事由のひとつとして「許可なく在職のまま他社に雇用されたとき」を挙げる例が少なくありません。解雇予告の除外認定基準(昭23.11.11基発第1637号)でも、「他の事業場へ転職した場合」を例示しています。 正式に契約を結ばないと不安だし、かといってそれを理由に懲戒解雇され、退職金がフイになってしまうのは避けたいところです。相手の方は、きっと痛し痒しという心境でしょう。 採用内定者にとって、「入社日」がどういう意味を持つかについて、裁判所は事案に応じて、二通りの考え方を示しています。第一は「就労の始期」、第二は「効力発生の始期」というものです。 第二の考え方に基づき、内定契約を結べば、「採用します」という約束はしたけれど、入社日が到来するまで、「雇用契約の効力は発生していない」という結論になります。解約権を留保しているのですから、会社があらかじめ示した正当な理由があれば、内定を取り消す権限が生じます。新卒者の場合、採用内定の取消事由として、次のようなものが挙げられます。
他社から人材を引き抜く際には、1.の条件に代え、「相手方会社の退職」を効力発生の要件としておくとよいでしょう。会社と労働者の間で転職日を「効力発生の日」と定め、相手が元の会社を退職しないときは条件の不成就で内定はご破算と約束すれば、スムーズな形で移籍を実現できるでしょう。
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