判例 年俸制で会社の一方的査定は許されない (2009年4月号より抜粋)  
   

 

 
 

年俸交渉決裂時の対応 前年額準用が原則

年俸制は、会社と従業員が成績評価をめぐって交渉し、次年度の金額を決定する仕組みといわれています。それでは、交渉が決裂したとき、次年度の年俸額はどうなるのでしょうか。本事件では、会社が一方的に決める権限ナシと判断されました。実務的には、一般論として「決裂時の処理方法を別に定めていればそれによる」と述べた部分が参考になります。

N研究所事件 東京高等裁判所(平20・4・9判決)


プロ野球などでは、毎年、年俸更改をめぐってギリギリのつばぜり合いが繰り返されます。しかし、日本企業の年俸制では、交渉がそこまでヒートアップするケースは少ないようです。経営者が「せっかく年俸制を導入したのに、さっぱり賃金が下がらない」などと嘆くゆえんです。

「両者の意見がかみ合わず、交渉が決裂したとき、次年度の年俸額をどのように決めたらよいか」という問題などは、もっと早く論議されるべきだったのでしょうが、未だに明確な回答が示されているといえない状況です。

本事件は、「日本型年俸制」の負の側面を象徴するような事件です。訴えられた会社では、40歳以上の研究員を対象として、20年以上にわたり年俸制度を運用してきました。毎年、個人業績評価等を参考としつつ、役員と本人が個別交渉を行うという仕組みですが、細かなルールは明文化されていませんでした。

それでも、長年、大きなトラブルなく制度を運用し続けられたのは、労使双方が「あうん」の呼吸で着地点を見出していたからでしょう。しかし、経営事情の悪化・債務超過という事態に立ち至って、会社側は査定方法を一部見直し、年俸交渉のテーブルでもシビアな数字を提示せざるを得ない状況となりました。交渉は平行線をたどり、結局、会社が自己の査定に基づく金額のみしか支払わないため、従業員が裁判を起こしました。

裁判所は、一般論として「年俸額についての合意が成立しない場合は、年俸額決定のための成果・業績評価基準、年俸額決定手続、減額の隈界の有無、不服申立手続等が制度化され、かつその内容が公正な限り使用者に評価決定権がある」と述べました。

この条件を満たさない本事件については「使用者と労働者との問で合意が成立しなかった場合、使用者に一方的な年俸額決定権はなく、前年度の年俸額をもって次年度の年俸額とせざるを得ない」と判示しました。

本事件では、さらに「年俸制を採用する以上、就業規則で運用基準等を定めるよう労働基準監督署より是正勧告を受けたにもかかわらず、これを定めていなかった」という事情も会社側に不利に作用しました。日本型年俸制の多くが「ぬるま湯」的体質から脱却できないのは、明確な成果・業績基準を確立できないまま、運用を続けているからです。

本判決も、「ドラスティックな賃金切り下げは、その合理性を立証する精緻な評価制度が整備されて初めて可能になる」という当然の理を再確認するものです。

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