判例 「転勤不満」の不良勤務者を解雇 (2009年8月号より抜粋)  
   

 

 
 

自ら信頼関係を壊した 会社の行為に不当性無い

転勤発令に不満で、勤務態度が劣化するのは珍しい話ではありません。通常は一過性のものですが、本事件では、職場関係が悪化の一途をたどり、最終的に会社は普通解雇に踏み切りました。従業員は「会社の不当な扱いが原因」と訴えましたが、裁判所は、「自らの行為によって会社との信頼関係を破壊した」と述べ、解雇の合理性を肯定しました。

Mエンジニアリング事件 神戸地方裁判所(平21・1・30判決)


転勤が、社内昇進のステップ・ボードである場合には、従業員も比較的協力的です。しかし、「こちらで余った人を、そちらに回す」的な転勤では、本人は生活上の不便を余儀なくされる一方、処遇アップ等の見返りは期待できません。

当然、心の中で不満がくすぶるようになります。それが勤務成績不良等の形となって現れても、「責任の一端は会社にもある」ので上司も強い態度を取れず、問題がこじれるケースもあるようです。

本事件では、従業員は神戸から京都事業所に転勤となりました.本人は、@勤務地限定で入社した、A1〜2年で神戸に戻すという約束があったなどと、同僚等に吹聴していました、会社は、労組委員長等も出席する関係者会議を招集し、そうした事実はないことを確認しました。ところが、それを契機として、本人の仕事ぶりが激変します。頻繁に遅刻・職場離脱をするわ、上司の命令を無視するわ、仕事上の責任を放棄するわ、といった状況です。

会社は、再三にわたり指導・懲戒等を実施しましたが、「かえって上長に反抗したり、あるいは揶揄(やゆ)・愚弄したりする。ようになったため、最終的に普通解雇を宣告しましたこもちろん、本人、は承服しないので、裁判で争うことになりました。

裁判所は、一従業員4,200人、12事業所を擁する会社で、就業規則にも業務の都合で異動を命じる場合があることを規定してあり」、訴えを起こした従業員1人についてのみ「勤務地限定で労働契約を結んだ、神戸へ戻す約束があった」等の事実があったとは考えにくいと判断しました。

そのうえで、「会社の不当な行為がキッカケなのだから、勤務不良を理由とする解雇は無効」という従業員側の訴えを一つひとつ覆していきます。「離席時間を計測する行為は、従業員の尊厳を犯す」という主張に対しては「警告を与える前提として、正確な事実認識を得ようとするのは当然」、「従業員の父親に退職もやむなしと通知したため、精神疾患に追い込まれた」という主張に対しては「改善か期待できないから、家族の協力を得たいと考えたとしても、違法・不当とはいえないなどと述べています。

最終的に、「自らの行為によって会社との信頼関係を破壊したもので、これ以上の契約関係の継続を強いるのは相当でない」と判示しています。「被害者意識」に基づく常識はすれな非違行為に対し、及び腰にならず冷静に対応すべきと教えてくれる好例といってよいでしょう。

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