判例 うつ病は長期出張先会社に責任 (2009年9月号より抜粋)  
   

 

 
 

出張先は安全配慮義務を負う 

本事件は、「長期出張中」に社員がうつ病を発症した事案です。出張先会社の主担当員は、本人の「1人では対応できない」という訴えに耳を貸さず、精神的に追い詰める結果となりました。直接の雇い主のほか、出張先会社の責任も問われましたが、裁判所は「出張先会社は信義則上、安全配慮義務を負っていた」と認めました(本人素因により3割減額)。

名古屋地方裁判所(平20・10・30判決)


労働契約法第5条では、「使用者が安全配慮義務を負う」ことを明文化しています。しかし、たとえば、派遣のように直接の雇用主ではなく、派遣先が安全配慮義務(一部は派遣元も負担)を負う場合もあります。

本事件は、長期出張先の会社責任が問われた興味深い事案です。そもそも、「長期出張中の労働者がどのような立場にあるのか」というのは難しい問題です。一応、「自社から指揮命令を受けるか、自社からの委任に基づいて出張先が代理人として指揮命令を行って、プロジェクトチームを組んだ形で行う場合は応援出張とみる(派遣・出向ではない)」(安西愈「企業間人事異動の法理と実務」)という説を参考として挙げておきます。

うつ病を発症した社員Aは、自分の所属する会社Y1から出張し、出張先会社Y2でエンジンの共同開発に従事していました。指揮命令は、Y2の主担当員Bが行っていました。

社員Aは、Y2社員の厳しい叱責を受けショックのあまり2日間休み、Y1の部長に会社へ戻りたいと訴えて3ヵ月以内に帰社させるという約束を得ました。

その後、社員AはY2の主担当員Bに「現在の負荷では、1人では対応できない」と相談しましたが、相応の配慮を得ることができませんでした。

さらに、時間外労働が月80時間を超えるようになった一方、帰社させるという約束は果たされず、ついにうつ病を発症するに至りました。

裁判所は、「Y2社内で、Y2の施設および器具を使い、Y2の従業員の指示に従って業務を遂行していたのであるから、Y2には、信義則上、社員Aの生命および健康等を危険から保護するよう配慮すべき安全配慮義務を負っていた」と判示しました。

社員Aは、まじめかつ几帳面で、断れない性格であり、平均的な社員より精神的に脆弱だったと認められます。本人の素因に基づくもので、会社側には責任がないという主張も考えられます。しかし、判決文では、「過失相殺や素因減額による調整が図られるので、業務が共働原因となったというに過ぎない場合であっても、相当関係が認められる」と述べています(結果的にも、素因による減額が行われました)。

本事件の場合、明確に「業務を軽減して欲しい(耐えられない)」という訴えがあったにもかかわらず、これを無視したわけですから、「脆弱性を予見できなかった」という言い訳は通らず、管理の怠慢という非難を免れることはできませんでした。

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