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判例 免許喪失でも雇用維持義務 (2009年11月号より抜粋) | |
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職種転換を検討するべき 運転免許に高度専門性が無い 運転手として働いている人間が、免許資格を喪失したら解雇でさるのでしょうか。「死者にむち打つ」ような厳しい仕打ちですが、経営側としては背に腹を替えられないところです。本事件では、タクシー運転手は「高度の専門性を有しない」ので、配置転換により雇用維持を図るべきという厳しい判断が下されました。 東京地方裁判所(平20・9・30判決) 本事件では、タクシー運転者が業務中に追突され、後遺症が生じ、視力低下を理由に2種免許を取り消されてしまいました。会社としては、車を運転できない人間を雇っておくことは厳しい経済情勢です。 しかし、本人にとっては、免許喪失だけでも打撃なのに、さらに職まで失うとあっては、「泣き面に蜂」です。業務上のケガとなれば、なおさら納得できないでしょう。たとえば、飲酒運転で免許取消になった場合は、法規違反を事由として懲戒解雇可能です。一方、予定していた業務に従事できないことをもって、直ちに解雇が可能かどうかは微妙なところです。 一般論をいえば、職種限定があったかどうかで、違いが生じます。採用時に職種を限定していれば、事業主として配転等の解雇回避努力を講じる義務はなく、定められた業務の提供ができなければ、普通解雇する有力な理由となります。しかし、本事件の判決文では、さらに細かな分析を行っています。 「雇用契約が職種限定契約であるか、というとき、@使用者が本人の同意なく他の職種に変更することができるか、という問題と、A当該職種に就けなくなったとき解雇できるか、という2つの問題があるということができ、両者は別に解すべきものと思われる」と前置きしたうえで、職種・資格が高度の専門性を有するか否かで判断が分かれるという見解を示しました。 @(職種転換)については、専門性の要否に関わらず、原則として本人の同意が必要となります。しかし、A(解雇)に関しては、高度の専門性を必要とする職種(弁護士、医師等)に限って、解雇可能と認められます。 本事件は2種免許の所持者が対象ですが、裁判所は「2種免許は、平均釣な能力の人間であれば取得できる資格であり、高度の専門性のある資格とまではいうことができない」と判断しました。ですから、他の職種への転換により雇用を維持すべき義務を負い、「その業務に就けなくなったとき、使用者が当然に解雇等により契約を打ち切ることはできない」という結論になります。 ただし、本事件では、「被告会社の企業規模であれば、他の職種を提供することは困難とは解されない」と述べているので、小規模会社でほとんど運転手のみというケースでは、また判断が変わってくる可能性もあります。 クレーンやボイラー等を扱う職種でも、同様のケースが生じますが、少なくとも本判決をみる限り、簡単に解雇できると楽観はできないようです。
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