判例 継続雇用制度で労働条件が合意できない (2010年1月号より抜粋)  
   

 

 
 

高年齢法の継続雇用義務あるも、本人拒否なら退職へ 

定年到達者が「受け入れがたい」と感じる労働条件を提示し、雇用継続の合意が得られなかった場合、会社は高年齢者法に基づく義務を果たしたことになるのでしょうか。本事件では、転籍という条件に同意しなかった高年齢者が、法違反と訴えました。しかし、裁判所は、フルタイム・本社継続勤務という条件を必ず満たす必要はないと判示しました。

N社事件 大阪地方裁判所(平21.3.25判決)


高年齢者法では、定年到達者等の継続雇用制度の整備を求めています。法律の施行前に厚生労働省は想定問答集を公表(平成16年11月)しましたが、その中には、次のようなQ&Aがありました。

「Q 本人と事業主の間で労働条件の合意ができず、再雇用を拒否した場合も違反になるのか」

「A 定年退職者の希望に合致した条件での雇用を義務付けるものではなく、高年齢者法違反とはならない」

しかし、会社の対応に「誠意」が感じられない場合、高齢者がこの公式回答で納得するとは思えません。本事件で、会社側は「60歳前に転籍し、65歳まで勤める(賃金支払には、繰延型と一時金型の2種類があります)」、「60歳で雇用満了とする」という選択肢を提示しました。訴えを起こした元従業員たちは、いずれの条件にも不満足で回答を留保したため、会社は「60歳で雇用満了」を選択したものとして退職処理しました。

元従業員たちは、転籍・大幅な賃金ダウンを受け入れない限り、継続雇用を認めないという仕組みは、高年齢者法の趣旨に反していると主張しました。

しかし、裁判所は、「年金支給開始年齢までの間における高年齢者の雇用を確保するとともに、高年齢者が意欲と能力のある限り年齢に関わりなく働くことを可能とするという趣旨に反しない限り、事業主は多様かつ柔軟な措置を講ずること(ができ)、確保されるべき雇用の形は、常用雇用や短時間勤務、隔日勤務等の多様な雇用形態を含むものと解する」と判示しました。

転籍に関しても、「事業主と転籍先との間に同一企業グループの関係とともに転籍後の高年鶴者の雇用が確保されるような関係性が認められ、高年齢者法で定める継続雇用制度(の条件)に適合する」と述べています。繰延・一時金型を選択すると生涯賃金で不利益が生じますが、「総所得が低下することのみをもって直ちに法の趣旨に反するとまではいえない」とも述べています。

今回の判決文は、厚生労働省の行政解釈を肯定しつつ、従業員側の不満を一蹴した形となっています。ただし、「本件制度は、99%近い従業員が加入する労組の合意が得られ、現にこれら労働者による選択制が機能していることを勘案すると、労使の協議・工夫による制度と評価できる」と述べている点には注意する必要があります。短時間勤務や転籍・派遣といった不満足な条件しか示せないときも、それなりに労使で議論を尽くす等、合理的な制度づくりを模索すべきでしょう。

▲画面トップ


  労務相談と判例> その他労働契約の相談

Copyright (C) 2009 Tokyo Soken. All Rights Reserved 

東京労務管理総合研究所