判例 新人事制度で格付け見直しは当然 (2010年2月号より抜粋)  
   

 

 
 

新制度導入で降格 賃金ダウンもやむなし 

新しい人事・賃金制度を導入する際、格付け・賃金が大幅に下がる従業員も発生します。本事件では、降格により賃金が月8万円(経過措置あり)ダウンしましたが、裁判所は「平行移動の格付けては制度の趣旨が生かされない」と述べ、人事権の濫用はないと判示しました。

Mガス社事件 東京地方裁判所(平21.3.27判決)


会社(商社)は、平成13年度から、あたらしい「役割・グレード制度」を導入しました。新制度では、「責任領域」に応じて9段階の役割階層区分が設定されました。

訴えを起こした元従業員は、出向先企業で取締役も経験した古参社員で、新制度移行前には旧制度で7等級という位置づけでした。新制度で旧7等級に相当するのはSSF(シニアスタッフ)でしたが、人事評価会議の評定により、その1ランク下のSF(スタッフ)に格付けられました。移行措置(調整給)は設けられていましたが、単純に月例基本給の額面だけをみると、8万円の賃下げとなります。

元従業員は、「たとえ降格に理由があるとしても、新制度の移行基準を大幅に逸脱し、このような賃金の切り下げは無効」と主張しました。

しかし、裁判所は、人事・賃金制度改革の趣旨に立ち返ってと論じ、元従業員の訴えを論破します。「そもそも、新制度は、年功的色彩の濃かった従前の制度から、成果主義を導入しようとするものであることが認められるから、旧制度から新制度に移行するに当たって、一定の職級にある者を新制度の特定の役割に当然に移行させることとしたのでは、制度の趣旨を生かすことができないのは明らかである」。降格があって初めて制度導入の意義があるというのですから、経営者サイドからすれば、心強い限りの判例です。

結局、制度の合理性の有無は、どの程度の移行措置を設け、ショックを軽減させたか、という一点に絞られます。本事件では、初年度は旧賃金と新賃金の差額の100%を調整給として保障、2年度は50%、3年度は25%保障という経過措置が設けられていました。裁判所は、新制度の合理性を肯定しています。

本事件では、そのほか、制度移行時の手続き上の瑕疵も争点となりました。新制度移行の日付は平成13年4月1日でしたが、新制度について労働組合の同意を得て社内周知させたのが平成13年5月22日、就業榎則の改定届が労働基準監督署に出されたのは平成14年8月13日でした。新制度・協定等の発効日をさかのぼるのは、現実には、「ままある」ケースです。

実務担当者としては、裁判所の判断が気になるところです。判決文では、「新制度は、遅くとも平成14年1月1日までには周知徹底が行われ、効力が発生したと解され、平成13年度中は調整給により不利益は生じないこととされていたから、後日、遡及的に適用する変更も許されないわけではない」と判示しています。

▲画面トップ


  労務相談と判例> 人事制度と懲戒の相談

Copyright (C) 2010 Tokyo Soken. All Rights Reserved 

東京労務管理総合研究所