判例 社有車を子の送迎に使用で解雇は不可 (2010年5月号より抜粋)  
   

 

 
 

車両の私的利用での解雇は量刑が重過ぎる

会社の施設・備品等の私的利用は、珍しい話ではありません。本事件では、従業員(父子家庭)が社有車を子供の保育園送迎に使用していた点が問題になりました。会社は他の規律違反も合わせて普通解雇に処しましたが、裁判所は「私用を直接注意した事実等はなく、解雇は重きに失する」と述べ、処分の合理性を否定しました。

T社事件 甲府地方裁判所(平21.3.17判決)


本事件で、会社側は、就業規則中の「許可なく職務以外の目的で会社および取引先会社等の施設、車輌、機械器具、工作物、物品等を使用しないこと」という規定に違反したと主張しました。取引会社の施設等にも言及している点、「車輌」明記してある点など、なかなか周到な文章です。

似たような規定は、どこの会社の就業規則中にも設けられているはずです。しかし、会社から支給されている定類券を、「職務以外の目的で使用したことのない従業員は多いでしょう。

最近は、個人の携帯雷話が普及していますが、一昔前は、会社の電話を使って家人に帰宅が遅れる等を知らせるのは、ごく当たり前のこととして黙認されていました。

本事件では、そもそも社有車の私的利用は瑣末な事柄です。基本的には、時間管理にルーズな営業社員(毎日、直行・直帰)と会社間の感情のこじれが原因です。

しかし、会社はことさら些細な規則違反を洗い出し、普通解雇を正当化しようとしました。その中で、明白に就業規則の文言に違反しているといえる事実は、社有車の問題のみでした。従業員本人と会社は、「貸与された社有車を子供の保育園への送迎に使用していた」ことを、争いのない事実として認めています。

車の私的利用に関達して、「ガソリン代の不正申告」の問題も指摘されていました。しかし、この点については、従業員は言を左右にして、事実を認めませんでした。裁判所も、証拠不十分でもあり、取り上げるに値しないと判断しました。

さて、核心の「社有車を送迎に使用した」のは、解雇処分に値する事実か否かという問題です、判決文では、「会社の許可を得ない従業員の行為に対しては、注意をすれば足りるところ、就業規則に違反するから社有車を保育園の送迎に使用することを控えるようにと直接注意をした事実を認める証拠はない。会社からの度々の注意を受け、それを無視していたというのであればともかく、直ちに会社の秩序・風紀を乱すとまでは認められない」と述べています。

結論的には、「このような些細なことをもって解雇するのは、(略)権利の濫用として無効である」と判示されました。

自賠責法の運行供用者責任(第3条)があるので、会社は社有車の私的利用には一定の制限を課すべきです。しかし、父子家庭の幼児の送り迎えで、解雇するというのは、やはり、社会通念上相当な処分とは言えないでしょう。

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