判例 別居手当不支給の規則改正に合理性なし (2010年8月号より抜粋)  
   

 

 
 

就業規則の改定は合理性のない不利益変更

就業規則の不利益変更は、「合理性」がなければ認められません。本裁判では、「地域限定社員には別居手当を支給しない」という規定の合理性が争われました。1審は会社勝訴でしたが、2審(本裁判)では「地域限定社員ても、現実に異動が実施された場合には支給を除外する規定は適用されない」と判断しました。

A電気事件 仙台高等裁判所(平21.6.25判決)


就業規則による労働契約の内容の変更」については、労働契約法第10条で「就業規則を周知させ、かつ、就業規則の変更が合理的なものであるときは、変更後の就業規則に定めるところによる」と規定されています。労働基準法に定める就業規則の変更手続(第90条)を適正に履行していても、合理性が否定されれば、効力を有しません。

これは、労働契約法の施行(平成20年3月)以前から存在する判例法理を明文化したものです。

本事件で、会社は工場閉鎖に伴い従業員を転勤させる際、実務職群(現業職)を対象として勤務地限定社員制度を導入しました。同時に、社員組織(労働組合ではありません)との間で、別居手当・単身赴任用社宅費・留守宅帰宅旅費の支給対象から勤務地限定社員を除外する協定を締結しました。ただし、特例措置として2年間、適用を猶予することで合意がなされました。

実務職の従業員Aは、社外に単身赴任し、2年間は別居手当等の支給を受けていました。しかし、2年が経過した時点で、協定に基づき、実然、手当が打ち切られてしまいました。勤務地限定社員であっても、転勤によって経済負担が増す点では、企画職(総合職)群と変わるところはありません。手当打切りを不服として、裁判所に訴え出ました。

1審(盛岡地裁)では、本人も制度移行時に「地域限定社員制度の適用申請書」を提出している等の事情を考慮し、納得ずくで身分変更がなされたと判断しました。

しかし、2審(仙台高裁)は、従業員側の主張に軍配を挙げました。改定後の就業規則は協定に全面委任する内容で、規定の仕方としてはずさんといわざるを得ません。

仮に協定と就業規則が一体のものであると認めたとしても、「本規定は、転勤を命じられることのない実務職群に属する社員等を対象とした規定であるから、実務職群に属する社員等に転勤を命じた場合にも適用のある規定ということはできない」と解するのが自然です。

仮に「協定にかかわらず転勤を命じた場合にも、実務職群に属する社員であるということのみを理由として別居手当等の適用を除外する」趣旨の改定であるとすれば、就業規則の不利益変更について合理性がないと判断せざるを得ません。

裁判所は、会社が実施した手当カットは不法行為に該当するとして、損害賠償(慰謝料除く)の支払いを命じています。常識に照らしても、当然の結論といってよいでしょう。

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