判例 管理職にも深夜割増賃金を支払え (2010年11月号より抜粋)  
   

 

 
 

行政と同一見解を示す 基本給に含む特約は可能

時間外の適用外とされる管理職でも、深夜割増の支払い義務があるといいます。しかし、支払っている会社は、むしろ少数派です。本事件は、深夜割増の支払いをめぐって最高裁判所まで争った事案で。判決文では、「管理職でも深夜割増の請求可能。ただし、所定賃金に含めるという約束は有効」という公式見解を再確認しました。

K社事件 最高裁判所(平21.12.18判決) 


管理職の深夜割増は、古くから実務者泣かせの問題でした。労働基準法施行規則第54条第1項第6号では、賃金台帳の記載事項として時間外・休日・深夜労働時問数を定めていますが、同条第5項では、管理監督者等については「これを記入することを要しない」と明文でうたってあります。

しかし、通達では「深夜業については適用が排除されるものではない」(昭63・3・14基発第150号)、「深夜労働時間数は賃金台帳に記載する」(昭23・2・3基発第161号)という解釈が示されています。

労務担当者の中には「管理職でも深夜割増の支払い義務がある」と知っている人も少なくありませんが、実態として、深夜割増を支払っている会社は多くないのが実情です。法解釈と実態の間には、浅からぬ溝があります。

本事件は、美容室の総店長が退職後、時間外・深夜割増賃金等の支払いを求めたものです。争点はほかにもあります(顧客名簿の持ち出し等)が、そちらは省略します。

第2審(高裁)では、「総店長は管理監督者に該当する。そうすると、その余の点について判断するまでもなく時間外賃金(深夜割増賃金を含む)の支払請求も理由がない」と判示しました。これは、厚生労働省の公定解釈と真っ向から対立します。そこで、総店長側は最高裁で特にこの部分について争いました。

最高裁では、法文を詳しく分析したうえで、「管理監督者等には、『労働時間、休憩及び休憩に関する規定」は適用しない」(労働基準法第41条)という条文中の「労働時間、休憩及び休憩に関する規定」には深夜業に関する規定は含まれないと判示しました。ですから、「管理監督者は深夜割増賃金を請求することができると解するのが相当」という結論になります。

同時に、「管理監督者の所定賃金が労働協約、就業規則その他によって一定額の深夜割増賃金を含める趣旨で定められていることが明らかな場合には、その額の限度で深夜割増の支払いは必要ない」点も再確認しました。以上を踏まえ、さらに審理を尽くすよう「原審差し戻し」という判決が下されています。

企業の大半が管理監督者に深夜割増を支払っていないのは、「管理監督者の高額の所定賃金には、当然、深夜分が含まれている」と解しているからでしょう。

しかし、裁判所で、その主張がすんなり認められるとは限りません。差し戻し審でどのような判断基準が示されるか、そちらも注目です。

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