判例 期間短縮のうえ雇い止めは不当 (2011年1月号より抜粋)  
   

 

 
 

契約期間中に期間を変更・雇い止めは信義則上ゆるされない

期間社員の解雇には、法律上、厳しい制限があります。本事件で、会社は「解雇」を避けるため、1年の雇用期間を5ヵ月に短縮する契約変更を実施しました。そのうえで5ヵ月経過後に「雇止め」を通告しましたが、裁判所は「雇用契約の終了は信義則上許されない」として、残りの雇用期間中の賃金を支払うよう命じました。

A社事件 東京高等裁判所(平21.12.21判決)


人材ビジネス業では、顧客会社の引き合いに応じて人材の手配をします。顧客会社の注文が打ち切りになると、手配した人材の行き場がなくなってしまいます。このため、無茶な解雇・雇止めをめぐるトラブルが生じがちです。

本事件も、典型的なパターンをたどりました。会社は注文主会社内に事業所を置き、請負労働者を勤務させていました。請負労働者との間では、1年の雇用契約を締結・更新していました。しかし、注文主の仕事が減少したため、人員を削減せざるを得ない状況に立ち至りました。

労働契約法第17条第1項では、「期間の定めのある労働契約については、やむを得ない事由がある場合でなければ、解雇することができない」と規定しています。受注量の減少等は、一般に「やむをえない事由」には該当しないと解されています。そこで_会社側は「解雇」を「雇止め」にみせかけるため`一策を講じました。まず変更の理由を明らかにしないまま、「1年の雇用契約期間を5ヵ月に短縮したい」と請負労働者に要請し、そのうえで5ヵ月経過後に一方的に雇止めを通告したのです。当然、労働者は承服せずに、裁判に訴えました。

過去には、長年勤めていたパート社員を対象として、事前に「契約更新を行わない」旨の説明をし、最後の1回の契約更新を行ったケースで、契約終了の合意を認めた判例が存在します(近畿コカ・コーラボトリング事件、大阪地判平17.1.31)。仮に、本事件でも、「受注量が減少したので、契約期間を短縮したうえで、最後の1回の更新としたい」旨の説明をし、請負労働者の同意を得ていれば、会社側も裁判に勝てる可能性が高かったでしょう。

会社側としては、「契約期間を短縮するには相応の理由があるはずで、それを薄々承知のうえで契約変更に応じたのなら、雇止めにも文句はいえないはず」と考えていたのでしょう。しかし、労働者側は立場が弱いので、契約変更を要請されれば、よほど明確な理由がない限り、断るのは困難です。

判決文によれば「労働者から変更の趣旨を質問されても、あいまいな返答をするにとどまった」というのですから、手続に大きな瑕疵があります。

真意を隠したまま不利な条件を押し付けたのは、「著しく不当であり、雇用契約の終了は信義則上許されない」という裁判所の判断は妥当でしょう。人材ビジネス会社側の苦しい心のうちも分かりますが、敗訴も致し方ないといえます。

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