判例 ミスを繰り返す障害者の雇止めは可 (2011年2月号より抜粋)  
   

 

 
 

改善への努力欠ける 雇用保障する義務無い

事業主は、法定雇用率以上の障害者雇用を義務付けられています。能力不足を理由に雇用を打ち切る際、「障害者雇用促進法の趣旨に反する」といって障害者が法的保護を求めたら、どうなるのでしょうか。本事件で、裁判所は、「障害者自らも自立するよう努める義務」があり、ミス多発を理由とする雇止めには合理性があると判示しました。

A証券事件 東京高等裁判所(平22.5.27判決)


障害者の法定雇用率未達成によりペナルティーを課せられるのは、一定規模以上の事業主です。従来、障害者雇用納付金の支払い義務は301人以上規模が対象でしたが、平成22年7月から201人以上に範囲が拡大されています。平成27年4月からは、さらにボーダーラインが101人以上に引き下げられます。

障害者雇用は会社の社会的義務といってよいですが、賃金に見合う働きをしてもらわないと困ります。障害者であるからといって、就業規則の普通解雇規定等が適用されないわけではありません。しかし、なかなか思い切った対応はできないものです。

本事件の被告会社は、法定雇用率の維持達成のため、原告従業員(障害者)を採用しました。原告は、障害等級3級のうつ病患者です。障害者の中には、世間一般の「障害者イメージ」に近い身体・知的障害者のほか、精神障害者も含まれます(障害者雇用促進法第2条第1項)。就労可能な身体・知的障害者を探すのはなかなか大変で、健常人と同様の身体・知的能力を持つ精神障害者は、実は有力な人材リソースとなっています。

原告の担当業務は郵便物回収。配達、郵便料金の支払い、名刺作成、事務用品の発注等でしたが、「同僚の指導を受けながら、比較的簡易な作業に従事していたところ、郵便仕分け作業におげる誤配送や名刺作成での大量の誤印刷による損害を生じさせており」「同僚から具体的な指導を受けてもその改善を図らず、名刺作成の際に失敗した用紙を無断でシュレッダーにかけたりするなど、失敗を隠ぺいするに及ぶ」といった勤務状態でした。

会社は、有期契約を一度は更新しましたが、ミスの多発が続くため、原告に対し2回目の更新はしない旨告げました。これに対し、原告側が「障害者雇用促進法違反」という主張も絡め、雇止め無効を争ったのが本裁判です。

裁判所は、障害者雇用促進法第5条の趣旨に基づき、「事業者は、労働者が白立して業務遂行ができるようになるよう支援し、その指導に当たっても、障害の実態に即した適切な指導を行うよう努力することが要請されている」点を認めました。しかし、第4条では、「障害者は自ら進んでその能力の向上を図り、有為な職業人として自立するよう努めなければならない」と規定しているのを踏まえ、「事業者が相応の支援および指導を行った」にもかかわらず、改善の見込みが得られなかった場合には、雇止めもやむを得ないと判断しています。

▲画面トップ


  労務相談と判例> 退職、解雇の相談

Copyright (C) 2011 Tokyo Soken. All Rights Reserved 

東京労務管理総合研究所