判例 添乗業務は「みなし労働」の対象外 (2011年4月号より抜粋)  
   

 

 
 

実働時間を算定できる 労使合意あっても無効

旅行の添乗業務が「事業場外みなし労働」に該当するか否かが、裁判上のホットな争点となっています。ほとんどの従業員が携帯電話を持つ現代、外勤社員だからといって「みなし」の適用が認められるとは限らなくなっています。本欄では、会社側敗訴、つまり「みなし制の適用」を否定した判例をご紹介します。

H旅行社事件 東京地方裁判所(平22.5.11判決)


同じ旅行社を相手として、前後して2つの訴訟が発生しました。第1の事件の争点は、国内旅行の添乗業務に「事業場外みなし」を適用できるか否かです。東京地方裁判所は、「みなしは不可」と結論付けました(平22.5.11判決)。第2の事件では、海外旅行の添乗業務を対象として同様の問題が争われました。同じ東京地方裁判所は、「みなしは適用可」と判示しました(平22.7.2判決)。

本稿では、第1の事件を取り上げて、裁判所の判断枠組みをみていきましょう。

添乗業務では、随時、ツアー客の要求に応える必要があり、ツアー期間中は、気を抜けない時間帯が続きます。しかし、会社の経営上、その時間すべてを労働時間として扱うと、人件費コストの吸収が難しくなります。そこで、「事業場外みなし」の適用が許されるか否かという問題が生じます。

原告の従業員側は、「会社は、添乗員の業務を携帯電話等で把握できるし(会社は携帯電話を貸与し、随時電源を入れておくよう指示していた)、あらかじめ決められた行程表に従って行われているかどうか添乗日報・報告書で確認することができる。添乗業務はマニュアルによって詳細に指示されているのであるから、労働時間の算定可能である」と主張しました。

ちなみに、旅行社を所轄する労働基準監督署も、時間把握可能を前提に指導を行っていました。

一方、被告会社側は、「行程表は参考程度のものであり、マニュアルもアドバイス等を含むもので、具体的指示ではない。現地天候や交通状況によってどのように日程が変化するか分からない実態に照らすと、労働時間を算定し難いときに該当する」と述べています。

裁判所は、具体的な業務内容を吟味する前に、労働時間を算定し難いか否かは、「社会通念に従い、客観的にみて把握可能であるかどうか」に基づき判断すべきであるという原則論を提示しました。「使用者にとって把握が困難(面倒)である」から自動的にみなし制の適用が許されるものではなく、「労使が合意すれば足りるものでもない」とクギを指しています。

そのうえで、「添乗員に予定地を立ち寄る順番、滞在時間についてある程度裁量があるとしても、報告書や携帯電話による確認等を総合して、労働時間を把握することは、『社会通念上可能』である」と判示しました。

添乗員だけでなく営業外勤社員等についても、電子機器の発展等を踏まえ、時間把握可能性に関する「社会通念」が常に変化していく点には注意が必要でしょう。

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