判例 委託店主は労働者に該当せず (2011年5月号より抜粋)  
   

 

 
 

団交に応ずる義務無い 労働者性は拘束の度合いで判断

会社と個人の間で、雇用契約と委託契約のいすれが結ばれているか判然としないケースもあります。本事件では、修理業務の「代行店主」が発注元に対し、自分は労働者てあるとして団交に応じるよう求めました。労働委員会(地労委・中労委)は労働者性を認めましたが、裁判所(地裁・高裁)はそれを否定し、意見が真っ二つに割れました。

Vエンジニアリング事件 東京高等裁判所(平22.8.26判決)


厚生労働省では、平成22年末に「労使関係法研究会」を立ち上げ、労働組合法上の労働者性判断基準の明確化に取り組んでいます。近来、労働者に該当するか否かを巡り、労働委員会と裁判所の間で正反対の判断が下されるケースが増えているためです。

本事件もその中の一つで、大阪地方労働委員会、中央労働委員会は労働者性を肯定し、東京地方裁判所、東京高等裁判所が否定するという結果となっています。本欄では、高裁の判断をご紹介します。

原告は、音響製品の修理サービスを行う代行店主です。発注元に対し待遇改善を求めるに際し、自身は労働者であるとして産別労働組合を通して団体交渉を申し込みました(自身は分会代表を務めています)。これに対し、会社側は労働者に該当しないので、交渉に応じられない旨、回答しました。

ちなみに、労組法第3条では、「労働者とは、職業の種類を問わず、賃金、給料その他これに準ずる収入によって生活する者をいう」と定義しています。「雇用契約によって使用される者のみに限定されず、請負・委託契約等によって働く者であっても、使用従属の関係に立ち、労働の対価として報酬を受け・これにより生活する者は、労働者である」と解されています(労組法コンメンタール)。

本事件で、原告側は@代行店は、通常の労働者同様に企業組織に組み込まれている、A代行店には業務の受注について諾否の事由がない、などの理由を挙げ、自身は労働者に該当すると主張しました。

これに対し、裁判所は、「契約関係の一部にでも拘束、指揮監督と評価できる面があるかどうかによって労働者性を即断するのは相当でなく、全体的にみて現実的・具体的な支配関係が認められるか否かにより判断すべき」という考え方を示しました。

そのうえで、@については、各種マニュアルに基づく業務の遂行が求められ、研修の受講が義務付けられていても、発注元が設定する一定の水準に相応しなければならないという委託内容による制約にすぎないと判示しました。Aに関しても、他の企業から同種の業務を受託することは何ら制眼されておらず、特定の発注元からのみ受注しているとしても、それは自主的な選択の結果にすぎないと述べ、原告の主張を退けました。

裁判所の「委託といっても、全部お任せでやれるはずもなく、一定の指示・制約は付きものである」という判断は、常識にも合致するものですが、今後、厚生労働省の研究会がどのような見解を示すか、注目されるところです。

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