判例 労働契約承継法による移籍は有効 (2011年7月号より抜粋)  
   

 

 
 

同意しない社員にも適用 協議・説明努力は尽くした

労働契約承継法では、分割計画書に承継の定めを置くことで、従業員を新会社等に移籍させることができます。本事件は、移籍に同意しない従業員が、承継は無効と申し立てたものです。裁判所は、会社は十分右協議の機会を与えたと認め、承継手続きに瑕疵はなく、在籍出向等の要求にも応じる必要はないと判示しました。

N社(会社分割)事件 最高裁判所(平22・7・12判決)


会社の分割には、「新設分割」と「吸収分割」があります。分割前の会社の従業員のうち、一定部分は新設・吸収会社に籍が移ります。一般に、移籍(移籍出向)の場合、本人の同意を必要とします。しかし、労働契約承継法では、スムーズな人員移管のために、特別なルールを設けました。

「承継される営業に従事する労働者」と「従事しない労働者」に分けて取扱いが定められていますが、「承継される営業に従事する労働者」のうち、分割契約書等に承継する(移籍させる)旨の定めがある者は、異議申し立てができません。本人が同意しなくても、分割と同時に移籍が成立してしまいます。

労働契約承継法は平成13年の施行で、まだ新しい法律です。同法に基づく移籍制度が日本の風土に根付くには、まだまだ時間がかかると予想されます。本事件は、移籍の有効性について最高裁まで争ったもので、リーディング・ケースとして参考になります。

裁判を起こした従業員は労働契約承継法に基づく「異議申し立て」ができないため、そもそも分割自体が無効だと主張しました。分割が無効なら、移籍も自動的に取消になります。「無効」を主張する根拠は、分割に際し、労働者との協議(いわゆる「5条協議」)義務が課されている点です。

従業員側は、必要な協議が尽くされたとはいえず、手続に瑕疵があると訴えました。最高裁は、労働契約承継法で一定従業員について異議申し立てができないと定めているのは、「適正に5条協議が行われ、当該労働者の保護が図られていることを当然の前提としている」ので、「5条協議が全く行われなかったとき、また、行われた場合であっても、説明や協議の内容が著しく不十分であるときは、労働契約承継の効力を争うことができる」という原則論を述べました。

そのうえで、「会社は、対象従業員に対して7回にわたり協議を持つとともに書面のやり取りなどを行っており」、「5条協議については『適切な実施を図るための指針(平12・労働省告示第127号)』で説明・協議すべき事項が定められているが、本事件では指針の趣旨にかなう説明がなされた」と認定しています。

5条協議が不十分であるといえない以上、労働契約承継の効力を否定できないという結論となります。移籍の有効性をめぐっては、通常の移籍出向によるケースと労働契約承継法によるケースでは、考え方がまったく異なるので、注意が必要です。

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