判例 酒の上の失敗で解雇やむなし (2011年10月号より抜粋)  
   

 

 
 

企業秩序を混乱させ、態度を改める見込みが乏しい

「酒の上の失敗」に対して、まだまだ日本社会は甘い面があります。社内外の批判の声にさらされ、会社は飲酒癖の取締役をかばいきれず、解雇に処しました。裁判は紛糾しましたが、最高裁は「被上告人は自ら勤務態度を改める見込みが乏しく、解雇もやむを得ない」という結論を下しました。

Oリース事件 最高裁判所(平22・5・25決定)


ひと頃ほど華やかではありませんが、飲酒は今でも接待の王道です。営業関連の古手社員の中には、終業ベルが鳴った後、「本当の仕事が始まる」とうそぶく人もいます。会社側も、そういう豪傑社員に対して一目置く傾向がみられたものです。しかし、「仕事のため」に飲んでいたはずが、いつしか飲酒そのものが目的に変わるという話は珍しくありません。

本事件の主人公は、入社直後から営業部の次長ないし部長という幹部従業員であり、その後、統轄事業部長兼務取締役に昇進しているのですから、「やり手」の仕事人として社内でも一定の評価を得ていたようです。

しかし、「打ち合わせと称し、嫌がる部下を連れて温泉施設で昼間から飲食する」といった目に余る行為もみられました。本人としては、「頭の固い部下をリラックスさせ、同時に付き合いを覚えさせる」という教育的効果を意図していたのかもしれません。昔は、どこの会社にも、こういう先輩が1人はいたものです。

しかし、ある日、酒が過ぎて「取引先との打ち合わせをすっぽかす」という事件を起こしてしまいました。当日夜、社長と電話で話をした際、当人は酒に酔った状態で「自分を辞めさせたらどうですか」と口にしました。

社長はかばいきれないと判断し、取締役会に諮ったうえ、本人の「退職の申出」を承認しました。普通なら、それで事件も幕引きです。

しかし、本人が自主的に退職願を出すのを拒んだため、解雇という形になりました。最初は「ちょっとした感情的な行き違い」だったのでしょうが、労働審判、地裁、高裁と争い、最後は最高裁に上告するという泥沼状態に陥ってしまいました。

下級審では、「社長は、飲酒癖を改めるようはっきりと注意せず、かえって本人を取締役に昇進させたため、自覚を促すことができなかった」等と述べ、一部、取締役側の主張を認めました。

しかし、最高裁は「本人の勤務態度は、正常な職場機能、秩序を乱すものであり、自ら勤務態度を改める見込みも乏しかったとみるのが相当で、本件解雇は、懲戒処分などそれ以外の方法を取ることなくなされたとしても、不法行為に当たらない」と判示しました。

結論は穏当なものですが、本事件から学ぶべきことは、「わがまま社員に対して、注意すべき点は注意し、懲戒処分等も与え、反省・改善の機会を与える」という毅然たる態度の重要性(当たり前のことですが)でしょう。

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