労働時間の通算 (2012年2月号より抜粋)  
     
 

2事業場かけもちの従業員が残業したら割増賃金の支払い義務者は?

 

Q

当社は飲食店業で、営業時間は夜間が中心です。従業員の1人が、最近、ひどく疲れた様子をみせるので、問いただしたところ、午前中に他の職場でアルバイトしているとのことです。この場合、就労時間帯が遅い当社で勤務中に法定枠の8時間を超えます。割増賃金の支払い義務を負うのは、当社なのでしょうか。

 

 
 
A

後から契約した事業主が支払うのが原則

労働時間は、「事業場を異にする場合も通算する」(労基法第38条)と規定されています。貴社(A社)と他社(B社)は関連会社等ではないようですが、第38条の適用に当たっては「同一事業主に属する異なった事業場において労働する場合のみでなく、事業主を異にする事業場で働く場合も含まれる」(昭23・5・14基発第769号)と解されています。

A社とB社の労働時間を「通算」し、1日8時間、週40時間の法定労働時間枠を超えた場合、割増賃金の支払い義務を負うのはどちらの会社でしょうか。

労働基準法では、「1日とは、午前0時から午後12時までのいわゆる暦日をいう」と定義しています(昭63・1・1基発第1号)。定義どおりに考えると、就労時間帯が後に位置する会社の方が不利な立場に立たされます。B社で4時間働いた後、貴社で8時間働けば、みかけ上、貴社で就労中に8時間の上限を超えてしまいます。しかし、超過した4時間について貴社が割増賃金の支払い義務を負うというのは、常識に反します。

この点について、労基法コンメンタールでは、「時間外労働について法所定の手続(36協定の締結等)をとり、割増賃金を負担しなければならないのは、当該労働者と時間的に後で労働契約を締結した事業主と解される」と述べています。

なぜなら、後で契約した事業主は、契約の締結に当たって、その労働者が他の事業場で労働していることを確認したうえで契約を締結すべきだからです。

現実問題としては、労働者が昼間働いている会社(B社)に対して「自分は夜も別の会社で働いている(そちらの契約の方が先)」などと、バカ正直に申告しているとは思えません。そんなことをいえば、採用を断られる可能性が高いからです。

しかし、仮に後になって割増賃金の支払いをめぐり争いが生じても、法的にいえば、契約した労働時間の範囲内で働かせる限り、先に契約を結んだ貴社が割増賃金の負担義務を負うことはありません。

注意が必要なのは、貴社で従業員の兼職という事実を知った後の扱いです。

事業主としては、2社の労働時間を通算し過重労働が生じているときは、それなりの回避義務を尽くさないと安全配慮義務違反に問われるおそれがあります。「他社で働いた分は、われ関せず」という主張は、認められないでしょう。

一方、兼職が会社の職場秩序に影響し、労務の提供に支障を生じるときは、懲戒処分の対象になり得ます(小川建設事件、東京地決昭57・4・28)。

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