判例 娯楽活動後の事故を通勤と認めず (2012年2月号より抜粋)  
   

 

 
 

娯楽活動終了後の帰路の事故 任意参加で業務性ない

業務終了後のレクリエーション活動は、従業員の懇親を目的とするものです。しかし、帰宅時間が遅くなるので、強制拘束されたように感じる従業員も少なくありません。「嫌々」参加したレクリエーション活動の帰路に交通事故に遭遇した場合、通勤災害と認められるか否かですが、裁判所は保護の対象外と判示しました。

国・N労基署事件 東京地方裁判所(平22・10・4判決)


新入社員を飲み会に誘ったら、「それは、仕事ですか」と尋ねられ、ことばを失ったなどという話をよく聞きます。大事な私的時間の一部をオジさんとのコミュニケーションに使うのは、ムダ以外の何物でもなく、「業務命令でなければ、誰が付いていくものか」というのでしょう。

本事件も、心理的な背景には似通った部分があります。入社後3ヵ月ほどが経ったある日、本事件の原告Aさんは、職場対抗バドミントン大会に参加しました。その帰りに、交通事故に遭い、左足をひざ下から切断する等の重傷を負いました。

Aさんは参加したくなかったのですが、マイナス評価が怖くて、断りきれませんでした。本人としては、「業務に関連した」ケガなので、当然、労災保険の保護対象になると思っていました。しかし、労働基準監督署への請求が不支給処分と決まった(労災保険審査官、労災保険審査会も同様の判断)ため、裁判に訴えました。労災保険給付を受けるために、考えられる理論づけは次の2とおりあります。

  1. バドミントン大会への参加自体が業務の一部だったので、その帰路の事故は通勤災害に該当

  2. 大会自体は業務ではなかったが、「職場への居残り後」の帰宅なので、通勤災害の保護の範囲内

2.については、「業務の終了後、サークル活動、労組会合等に出席した場合、社会通念上就業と帰宅との直接的関連を失わせるほど長時間となる場合を除き、就業との関連性を認めてよい」という通達が存在します(平18・3・31基発第0331042号)。

しかし、裁判所は、まず1.に関し、「任意参加であり、不参加者に不利益が課せられるものでもなく、実際の参加者も全従業員の2割程度であったこと、時間外手当等の賃金も支払われなかったこと」等を理由として、業務と認めませんでした。

2.についても、「体育館が市営体育館で、事業場から公道を隔てて約100メートル離れた位置にあり、利用目的が業務性を有する場合に限って『就業の場所』となり得る」ところ、大会参加は業務でないので「職場居残り後の災害」に該当しないと判示しました。

会社側も業務でないという認識で、運動中の事故に対しては別に民間の傷害保険に加入させていましたが、帰路の交通災害は対象外でした。

Aさんには非常に気の毒な結果ですが、レクリエーション活動や飲み会等は、基本的に、労災保険の保護を受けられないので、注意が必要です。

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