判例 自称内縁の妻に退職金支給せず (2012年4月号より抜粋)  
   

 

 
 

内縁の妻を名乗る女性に共同生活の実態ない

就業規則に何気なく記載した文言がとういう意味なのか、後から大問題になるケースがままあります。本事件で、大学は本人死亡時に退職金を支払う対象として、「配偶者(事実婚含む)」と規定していたところ、独身教授が死亡した後、「内縁の妻」と称する女性が現れ、退職金の受取を要求しました。大学側が支払を拒んだため、裁判にまで発展しました。

T大学事件 東京高等裁判所(平23・4・28判決)


退職金は従業員本人が受け取るものですが、退職事由には「死亡したとき」も含まれます。死亡した人に退職金を支払うことはできません。就業規則を作成するときは、あらゆるケースを想定しておく必要があります。しかし、仮に従業員死亡時の退職金支払いに関して、規定がなくても問題は生じません。

解釈例規(昭25・7・7基収第1786号)では、「労働者が死亡したときの退職金の支払について別段の定めがない場合には民法の一般原則による遺産相続人に支払う趣旨と解される」と述べています。

実務上、大企業等では、きちんと従業員死亡時の支払順序を決めている会社が多いようです。本事件は、国立大学法人ですから、国家公務員の規定に準じる形で、規定が定められていたと思われます。一方、民間企業では、労働基準法施行規則第42条(遺族補償を受ける者)に準ずるのが一般的で、その場合、「配偶者(婚姻の届出をしなくとも事実上婚姻と同様の関係にある者を含む)」という文言が用いられます。

本事件では、教授死亡後、家族が退職金を受け取ろうとしたところ、教授の交際相手の女性が「自分は退職手当規則所定の配偶者に当たる」と主張しました。大学としては、規則上の文言に縛られ、にっちもさっちもいかない状態に陥ってしまいました。

裁判所は、事実婚について「内縁の妻または夫のことであり、内縁関係とは、婚姻の届出を欠くが、当事者間に社会通念上の共同生活を成立させようとする合意があり、かつ、そのような事実関係が存在することが必要」という判断基準を示しました。

「内縁の妻」を名乗る女性は、「2人ともに婚礼衣装をまとい記念写真を撮影した」「自分が教授の死亡届を提出し、火葬許可証の申請をした」等の事実を証拠として申立てました。

しかし、裁判所は「2人はそれぞれ仕事を持ち、生計を異にしていた」「女性はマンションを所有し、そこを住民票上の住所としていた」「教授の家族は、婚姻の意思はないと聞いていた」「葬儀の喪主は、女性ではなく家族が務めた」等の事実を基に、「親密な交際をしていたことがうかがわれるものの、内縁関係にあったと認めるに足りない」と判示しました。

女性が本当に内縁関係にあると思い込んでいたのか、退職金目当てなのか、ちょっとよく分からない面もあります。しかし、会社としては、就業規則上の数行・数字の文言が、実務上、大きな問題を引き起こすおそれがある点を、本事件から学ぶべきでしょう。

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