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判例 復職の際の主治医と産業医の判断 (2012年6月号より抜粋) | |
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異動を契機にうつ発病 復職拒否もやむを得ず 精神不調者が「職場復帰可能」という医師(かかり付けの主治医)の診断書を提出しても、そのまま鵜呑みにできないケースが多々あります。本事件で、会社側は「本人と会社の感情的対立が未解決なままで復職させると、症状が増悪する」という産業医の意見を尊重しました。事件の経緯を精査した裁判所も、復職不能という判断を支持しました。 N社事件 東京地方裁判所(平23・2・25判決) メンタルヘルスは、目にはみえません。このため、患者が休みたがっていれば「休養加療を要す」、復職を希望すれば「就労は可能と認められる」という診断書を作成する町医者も少なくないようです。 患者の個人的事情に配慮し、いくらか筆を曲げるのも、「医は仁術」という精神からいえば非難に当たらないのかもしれません。しかし、労務管理に携わる側の人間としては、客観性の高い情報を与えてもらえないと困ります。 本事件は、「患者の主治医」と「会社の産業医」の意見が、真っ向から対立したケースです。本欄では、枝葉末節は省略し、節目のできごとのみをご紹介します。 原告従業員は、「中途退職者が続出する地獄のような職場(原告主張)」への転勤内示を受け、ストレス反応性不安障害を発症しましたが、その後、会社上司を攻撃する長文の手紙を繰り返し送付するようになりました。 会社が休職発令を出すに際し、本人は主治医の「就労は可能と思われるが、可能であればストレスの少ない職場への復帰が望ましい」という診断書を提出しました。休職期間満了時にも、主治医は同様の判断を示しました。 これに対し、会社は上司や産業医の意見を参考としつつ、復職は難しいと判断し、最終的に休職期間満了で退職扱いとしました。本人は、「会社が復職可能判断を不当に無視した」として、地位確認を求める裁判を起こしました。 裁判所は、主治医の所見に対し、疑問を投げかけました。主治医は、「職場復帰は可能。ただし、会社が信頼回復のための努力をすること、発病時の職場・当時の上司が係わる職場は望ましくないこと」などと述べていました。しかし、本人は異動発令前の職場に復帰することに固執し、会社に対し名誉棄損ともいうべき手紙を送付していました。「信頼回復のためには本人の常軌を逸した主張を認めるしかないが、それは原職復帰を意味する」ので、主治医の復職条件を完全に満足させるのは不可能です。 こうした状況下で、会社が職場復帰を拒否したのはやむを得ない対応だったといえます。裁判所は、「以上の事情に加え、原告が退職後も抗不安薬を服用していたことも考慮し、会社が復職可能診断を不当に無視したとは認められない」と判示しました。 結果的に会社勝訴ですが、異動の内示(平成17年6月)から期間満了退職(平成20年2月)まで2年半余の期間が費やされました。精神不調者への対応の難しさを示す事件といえます。
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