判例 職場内の喧嘩と使用者責任 (2012年9月号より抜粋)  
   

 

 
 

社外でも親密な友人同士 事業の執行と関連ない

職場内のケンカが原因でケガをした場合、「労災だ」「事業主責任だ」と騒ぎ立てる従業員もいます。本事件は、派遣社員と派遣先直用の従業員のいさかいであるため、話が複雑になりました。原告女性は4500万円を請求し、裁判所は13万円の損害を認めた事件から、ケンカに関する法理を学びます。

Y電機・A社事件 大阪地方裁判所(平23・9・5判決)


職場で事故が起きれば、何でも「会社の責任」と考えがちです。しかし、社内の行動がすべて業務とは限らず、私的行為も含まれるので、両者を厳密に区別しながら、業務上外、事業主責任の有無を判断する必要があります。

訴えを起こしたのは20歳代後半の女性Aで、電機量販店B社で派遣社員として働いていました。B社の直用社員の男性Cは、所属会社は違いますが、同世代の他の男女社員も含め、私的行動を共にする仲の良い友人の1人でした。感情的トラブルが原因でCはAの左後頭部を殴打しましたが、その場所は会社のタイムカード打刻機の前でした。Aはそれにより左耳の聴力を失ったとして、男性社員C、電機量販店B社、派遣元会社D社を被告として、裁判を起こしました。Aの主張する損害額は4500万円でした。

男性社員Cが被告なのは、誰でも理解できます。電気量販店B社が訴えられたのは、民法第715条の使用者責任が根拠です。同条では、「他人を使用する者は、被用者が事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う」と規定しています。社内のケンカで事業主が訴えられるのは、基本的にこのパターンです。

派遣元会社D社は、安全配慮義務違反が問題となりました。労働契約法第5条では、「使用者は、安全を確保できるよう必要な配慮をする」よう求めています。

裁判所の事実確認によりAは元々左耳に聴覚障害があったことが判明し、男性社員Cの負うべき責任は打撲と慰謝料の13万円と認定されました。2人のいさかいは、男性社員Cの社宅のカギの返還をめぐるやりとりです。裁判所は、「事業の執行の場所」で行われた行為ですが、「事業の執行について」行われたものではないので、電気量販店B社の責任はないと判断しました。

派遣先で業務上災害等が発生した場合、基本的に安全配慮義務を負うのは「派遣先」です。しかし、本事件では、派遣元を義務違反で訴えています。派遣元は、「派遣先での派遣就業が適正に行われるよう、必要な措置等を講じる」義務を負っています(派遣法第31条)。

派遣先で起きた事故であっても、派遣元の管理責任が問われるケースもあり得ます。しかし、本事件では、「派遣元D社の相談窓口に、原告Aが悩みや苦情を申し出た」事実はないため、D社の対応に問題なしと結論付けられました。

従業員が社内でケガをすると、会社も低姿勢になりがちですが、事実関係を確認し、毅然とした態度を採るべきでしょう。

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