判例 社員寮から強制締め出しは不法行為 (2012年10月号より抜粋)  
   

 

 
 

長期無断欠勤の外国人が訴え 会社に損害賠償を命ず

従業員が出社せず、連絡も取れないという場合、会社は多大な迷惑を被ります。本件は、独身寮の居住者(中国人)が私物を残して、帰国してしまった事案です。会社は解雇手続を取ったうえで、独身寮の部屋のカギを交換しました。当然の対応のようにみえますが、裁判所は不法行為として、小額ながらも損害賠償を命じています。

H製作所事件 東京地方裁判所(平23・11・24判決)


社宅や寮は、人集めの手段としても用いられます。最近では、人材ビジネス業者(派遣、業務請負)が、寮を整備し、相手先企業への送迎も担当するという形で、労働者・会社双方のニーズに応えています。

しかし、急いでかき集めた労働力の中には、責任感に欠けるタイプもいて、プィといなくしりぬぐなるケースもあると聞きます。「尻拭い」に追われる担当者としては、たまったものではありません。

本件は、名の通った大手メーカーが舞台ですが、従業員が中国人(A)という点に特色があります。やはり、人材流動化時代の影響を色濃く受けた事件といえます。

従業員Aは、元々、勤務態度に問題があったのですが、体調不良を理由に一時帰国を申し出ました。しかし、診断書・欠勤理由書の提出等の手続を一切取らず、事実上、無断欠勤の状態が続いていました。

会社は、けん責、出勤停止等の懲戒処分内容を記載した書面を立て続けに発送し、最終的には解雇を通告しました。ただし、最後の解雇通知書は本人受け取りを拒否されています。

半年ほどたった時点で、Aは再来日し、ひょっこり独身寮に姿を現しました。会社は、当然、居室からの退去を求めましたが、期限が到来しても本人は居座ったままです。業を煮やした会社は、Aが不在時に、居室のカギを交換し、文書掲示でその旨を告知しました。そこで、Aは会社対応の不当性を訴え、裁判を起こしたものです。

ここで、社宅・寮の取扱いに関する基本事項を再確認しておきましょう。社宅等については、家賃が世間相場に比べ著しく安いときは、賃貸借契約ではなく使用貸借契約とみなされ、退職と同時に契約終了するのが原則です。会社としては、社宅管理規程等で明け渡しの猶予期間を定めておくのが重要です。

本事件でも、会社側は「本件居室の使用関係は使用貸借関係に過ぎず、従業員の地位を失ったことにより居室の占有が失われているので、カギ交換は違法ではない」と主張しました。しかし、判決文では、「カギ交換は居室からの退去を強制するために『自力救済』したものと解され、自力救済は緊急やむを得ない場合を除き原則的に法の禁止するところである」と述べ、会社側にホテル代等7万円弱の損害賠償の支払を命じました。

会社施設からの退去を求めること自体は可能ですが、相手側が応じない場合、実力行使ではなく、キチンとした法的対応(明け渡しの仮処分申請など)を心掛ける必要があるということです。

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