従業員を休職させずに解雇できるか (2012年12月号より抜粋)  
     
 

精神疾患で長期休職の申請があったが拒否して解雇できないか

 

Q

従業員が、体調不良を理由に「10日間、年休を取りたい」と連絡してきました。その後、「うつ病と診断されたので、私傷病休職扱いしてほしい」と一方的な申し入れがありました。就業規則上、「3ヵ月の休職を与える」旨の規定がありますが、申し入れを拒否し、30日前の予告を行ったうえで解雇できないでしょうか。

 

 
 
A

恣意的制度運用は不当解雇とみなされる危険性が高い

就業規則では、「私傷病休職」と「労務不能による普通解雇」と両方の規定を定める会社が大多数です。

通常、従業員が長期療養を必要とする病気に罹患すれば、休職の規定を適用します。

しかし、メンタルヘルス関係の疾患の場合、完全に回復するとは限らず、出勤・欠勤を繰り返すケースも少なくありません。「休職ではなく、解雇規定を適用できないか」と、お尋ねになる気持ちも理解できます。

私傷病休職は、一般には、「解雇猶予制度」と解されています。しかし、病気になれば、自動的に休職の権利が生じるという意味ではなく、「傷病が休職期間中に治ゆする蓋然性(可能性)が高い場合にのみ、休職を発令する」等の限定条件を付すことも可能とされています。

しかし、この規定を適用できるのは、「脳疾患で意識不明の状態が続く」など明らかに短期間での復職が不可能なケースに限られます。

精神疾患の場合、本人が「2ヵ月程度の静養を要す」などと書いた医師の診断書を持ってくれば、治ゆの蓋然性を否定するのは困難です。

本来、休職を発令すべきところ、解雇を急ぐのはお勧めできません。躁うつ病者を解雇した事案(K社事件、東京地判平17・2・18)で、裁判所は「他の疾患の従業員については、休職により雇用を継続しているところ、躁うつ病者のみを解雇するのは、その症状の程度に照らすと、平等取扱いに反する」と判示しています。

お尋ねのケースでは、「精神疾患に対する偏見を理由とする不当な解雇」とみなされる危険性が高いといえます。

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