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判例 裁判で労働時間を証明する責任 (2012年12月号より抜粋) | |
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会社が資料の公開を拒む 労働者主張に基づき賃金計算 裁判で事実関係を確認する場合、被告は自己にとって不利な情報も開示する義務を負うのでしょうか。本事件は、時間外の支払を求めて争われたもので、会社は関連書類の提出を拒否しました。裁判所は、会社が提出に応じない場合、「推計によって処理する」ほかないと述べ、おおむね労働者側の主張に従って割増賃金の支払を命じました。 S社事件 東京地方裁判所(平23・10・25判決) 裁判で争う場合、基本的に法違反の事実等を立証する責任を負うのは、原告側です。しかし、労働問題に関する裁判では、細かいデータ・資料等を保管しているのは、会社側です。 そこで、往々にして、会社が自分に不利益な事実について証拠の提出を拒むケースがあります。「そのような書類は存在しない」などとシラを切るのも、常套手段です。 時間外の支払のほか、過重労働の有無、不当な人事考課・賃金査定の有無等をめぐって、「資料を出せ、出さない」という小競り合いが少なからぬ裁判で生じています。 本事件は、資料の提出義務に対する裁判所の考え方を知るうえで、大変、分かりやすい例といえます。時間外の支払等が焦点ですが、会社はタイムカードの開示には応じました。しかし、タイムカードの存在しない月や、存在してもほとんど時間の打刻のない月もあり、タイムカードのみでは、労働時間の算定が困難です。 そこで、原告従業員側は、「毎月の作業内容を日時、時間とともに記載した月間作業報告書」の提出を求めました。しかし、会社側は、「会計処理が済み次第処分しているので、存在しない」などといって、提出を拒否しています。 裁判所は、労使それぞれの立証義務の分担について次のように述べました。「時間外労働を行ったことについては、手当の支払いを求める労働者側が主張・立証責任を負うが、他方、労働基準法が使用者に労働時間を管理する義務を負わせていることからすれば、使用者側が適切に積極否認ないし間接反証を行うことが期待されている」 この前提に基づき、「使用者が本来、容易に提出できるはずの労働時間管理に関する資料を提出しない場合には、公平の観点に照らし、合理的な推計方法により労働時間を算定することが許される場合もある」という結論が導き出されました。具体的には、労働者側の主張に沿って、「始業・終業時刻の平均」等に基づく推計をベースとして、支払うべき割増賃金額を計算しています。要するに、「資料を提出しないのは勝手だが、適切な反論がない限り、合理的推論に基づき裁判所が判断を下すので、悪しからず」というわけです。 逆パターンが、私傷病休職者の診断書提出です。「従業員が就労可能という資料を提出せず、結局、会社が治ゆしたと判断できなかった場合、解雇もやむを得ない」(大建工業事件、大阪地判平15・4・16)という判例があります。こちらは、労働者が資料提出を拒むことにより、不利益な結論が導き出されたケースです。
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