36協定の特別条項の限度時間 (2013年3月号より抜粋)  
     
 

エスケープ条項を締結する際に上限となる時間数が規定されているか?

 

Q

現在、当社では時間外・休日労働(36)協定を結ぶ際、エスケープ条項を付け、最大で1ヵ月70時間まで残業できる体制としています。平成25年度は業務量の変動が大きいと予想されるため、80時間で協定したいと考えています。エスケープ条項で定める時間数に上限のようなものがあるのでしょうか。

 

 
 

時数上限の定めは無いが、過労死基準に注意

36協定を結ぶ際、原則的には「労働時間の延長の限度基準」(平10・労働省告示第154号)で定める範囲内とする必要があります。

「基準」では、通常の労働時間制については、1ヵ月45時間、1年360時間等の上限を定めています。

しかし、「あらかじめ特別の事情(臨時的なものに限る)が生じたときに限り」、限度時間を超えて労働させることができる旨の協定を結ぶこともできます(基準第3条第1項)。その際、「限度時間を超える一定の時間および割増賃金率」を定める必要があります。

さらに、特別条項を発動できる期間は、「全体として1年の半分を超えない期間」に限られます(平15・10・22基発第1022003号)。1ヵ月単位なら、年に6回までです。

これを「特別条項付き協定」といいますが、世間的には「エスケープ条項」という呼び名の方が広く知られています。

「限度時間を超える一定の時間」については、基準第3条第2項で「できる限り短くするように努めなければならない」と規定されているだけです。労働基準法コンメンタールでは、「限度となる時間は示されておらず、労使当事者の自主的協議に委ねられている」と解説しています。

しかし、実務的にいえば、あまりに『バカげた』数字を協定して労働基準監督署に届け出れば、指導を受けるおそれがあります。どの程度の数字が妥当な範囲なのか、過労死の問題と絡めて考えてみましょう。

労働安全衛生法では、時間外労働が1月当たり100時間を超えた場合、労働者の申出に基づき、医師による面接指導を実施しなければならないと規定しています(第66条の8)。

管理職のように労働時間の把握義務のない労働者にも適用されます(平18・2・24基発第0224003号)が、基本的には36協定に基づき時間外労働に従事する労働者を対象としています。単発的には、1ヵ月100時間を超える協定も「想定の範囲内」とみてよいのではないでしょうか。

一方、労災保険の過労死認定基準(平13・12・12基発第1063号)では、「1ヵ月におおむね100時間ないし6ヵ月平均80時間を超える時間外労働が認められる場合、業務との関連性が強い」と判断します。

エスケープ条項を6ヵ月連続で発動し、平均80時間を超える時間外労働を『現実に』命じるのは、事業主としてリスクが高いといわざるを得ません。

2つの要素を考慮すれば、「緊急事態発生時の予防線」として高めの数値を設定するにしても、100時間を大きく超える上限設定は避けるのが賢明でしょう。

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