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判例 背任行為で賃金差し止めは不可 (2013年3月号より抜粋) | |
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全額払いの原則に反する 損害賠償とは別問題 会社に迷惑をかけて、退職する人間がいる場合、「最終月の給与は支払わなくて当然」と考えたくなります。本事件で、従業員は取引先から定額の報酬を得ていました。裁判所は400万円余の損害を認めましたが、「背信行為が賃金の支払いを拒む理由となり得ないのは明白」と述べ、脅迫的言動に関する慰謝料の支払いも命じています。 Y工業事件 東京地方裁判所(平23・12・27判決) 賃金は「全額払」が原則で、「労働者の賃金債権に対しては、使用者が労働者に対して有する債権をもって相殺することを許さないとの趣旨を包含する」(日本勧業経済界事件、最判昭36・5・31)と解されています。 経営者としては、「会社に迷惑をかけた従業員に対して賃金を払うなんて、『泥棒に追い銭』だ」と感じるかもしれませんが、「労働者の賃金を受け取る権利」は手厚く保護されているので、実務上、注意が必要です。 本裁判は、大部分が「労働者の誠実義務違反」に関する争いです。XはY社の東京支社長でしたが、その取引先A社(Y社が業務委託契約を受託)の東京支社長の名刺も作成し、A社から定額の報酬を得ていました。 Xは、名刺の所持についてY社社長の了承を得ているし、報酬はY社受託業務と関係のない正当なアルバイト料であると主張しました。 しかし、裁判所は「業務委託契約の相手方から定期的に報酬を受け取り、実質的にも相手方の利益のために行動するのは、明らかにY社との関係で利益相反行為である(名刺作製を容認していたとしても、A社から報酬を受け取ることまで承諾していたとは考えられない)」と述べ、背任の事実を認定しました。その他の事案も含め、損害額は435万円に達します。 しかし、一方で、被害を受けたY社社長側も、たびたび不穏当な言動を行い、最終月の賃金支払いを拒否していました。 裁判所は、まず賃金の不払いに関し、「Xが背信的行為を行ったとしても、そのような点が賃金の支払いを拒む理由となり得ないのは明白である」と判示しました。損害賠償責任の有無とは、別次元の問題ということです。 次に、脅迫的言動については、「背信行為等は事実ではあるものの、Xおよびその家族にことさら恐怖感を与える言動をすることは許されるべきではないし、仕事上の知人に対し、Xの経済的信用を損なうことを意図して金員を横領した旨を流布することは社会通念上相当性を逸脱している」と断じたうえで、20万円の慰謝料支払いを命じています。 Y社社長が「激高のあまり」過激な行動に出たことについては、同情すべき点も多々あります。しかし、法律のルールには従うほかありません。 損害賠償分を一方的に賃金からカットするのも認められませんし、制裁として賃金を払わないという言い分も通りません(労働基準法第91条の制限を受けます)。怒りにまかせず、冷静な対応が求められます。
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