判例 安全配慮義務で配転を認める (2013年4月号より抜粋)  
   

 

 
 

関節炎を発症し重作業は無理 ドライバーを工場職へ

体力仕事の現場で「関節炎」を発症した従業員がいれば、会社として配置転換を検討するのは当然です。しかし、本人が職務限定にこだわり、賃金減額にも反対する場合、問題がこじれます。本事件はドライバーから工場職へ職種を変更したケースですが、裁判所は「安全配慮義務等の見地」から配転もやむを得ないと判断しました。

E社事件 干葉地方裁判所松戸支所(平24・5・24判決)


職種の限定は、労使双方にとって「両刃の剣」的な性質をもつ事項です。

会社が配転を求め、労働者側が職種限定を理由にこれを拒むケースもあります。労働者が配転を求め、会社が適職の有無を検討せずに解雇を急ぐケースもあります。労使がそれぞれの立場から、「職種の限定があった」「なかった」と主張を繰り広げます。

本事件では、ドライバーから工場職への配置転換をめぐり、労使の意見が対立しました。

Aさんは、ドライバーの求人広告をみて応募し、B社に採用されました。B社では、ドライバー用の就業規則・賃金規定が定められていました。

一方、B社のドライバー就業規則には、「業務上の都合により、職務の変更がある」旨の規定があり、かつ現実に異動する従業員が年間5名程度生じていました。

裁判所は、就業規則の規定・過去の転換実績等を踏まえ、「職種をドライバーに限る旨の合意があったと認めることはできない」と判示しました。

この点がクリアされれば、後は「業務上の必要性が相当程度のものであるか。不当な動機・目的のもとになされたものでないか」を検討し、配転の可否を判断することになります。

Aさんは、当初、期間雇用でしたが、途中から、期限の定めのない労働契約に転換しています。無期転換後、腰痛、通風性関節炎、足首捻挫により、たびたび欠勤する状態となっていました。

ドライバー職の仕事内容は、1人で客先を回り、重量物を1人で持つことがあり、長距離の運転を行うというものでした。判決文では、「会社が従業員に対する安全配慮義務および会社の業務の円滑な遂行の見地から、配転命令を出すべき業務上の相当程度の必要性がある」と認定しました。また、「上司が『身体にムリをさせないように配慮する旨や収入が下がらないように配慮する旨』を述べるなどしたことに鑑みれば、不当な目的があったとは認められない」と断じています。

ドライバーは、求人票上の記載等により、本人が職種限定と思い込んでいるケースが少なくありません。しかし、短期の有期契約と無期契約では、自ずとその合意内容に差異があって然るべきです。無期の場合、「当分の間は職種が限定されていても、長期のうちには他職種に配転される合意が成立しているケースも多い」(菅野和夫「労働法」)と考えられますが、就業規則等で明記しておくのがより良いのはいうまでもありません。

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