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貸付金と賃金を相殺 (2013年7月号より抜粋) | |
従業員への貸付金を退職金で自動相殺するために必要な手続は? |
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Q |
従業員に対する貸付金ですが、賃金・退職金で清算する場合、いろいろと制約があるという話も聞きます。貸したお金を返してもらうのは当然の権利と思うのですが、何が問題なのでしょうか。会社として、どのような対応が必要になりますか。 |
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A |
貸付時に本人同意を取得すると良い 労働基準法では、「労働者とは、職業の種類を問わず、事業に使用される者で、賃金を支払われる者をいう」と定義しています(第9条)。 賃金の受取は労働者の本質的定義に関わる重大な問題ですから、賃金の支払に関して厳格なルールが定められています。 具体的には、労働基準法第24条で、いわゆる賃金支払5原則を規定していますが、その中に「全額払」があります。 賃金は、「法令に定めがある場合、労使で賃金控除協定を定める場合を除き」、賃金額の一部を控除(天引き)することなく、全額を支払う必要があります。 問題は、この「控除」に「賃金債権の相殺」に含まれるかです。民法では、「双方の債務が弁済期にあるときは、各債務者は、その対等額について相殺によってその債務を免れることができる」(第505条)と規定しています。 この一般論によれば、使用者は退職金を支払う債務を負っていても、労働者に貸付金の返済義務があるときは、相殺が可能と考えられます。 しかし、「相殺が控除に該当」すれば、労基法第24条により、全額払の原則が適用されます。判例・学説では、「相殺は控除に含まれる」という見解が有力なようです。なぜかというと、「相殺禁止が全額払の原則に含まれないとすると、使用者は、労働者が責任なしと主張している損害金等についても一方的に相殺できる」こととなり、不合理だからです(菅野和夫「労働法」)。 また、民事執行法では、「賃金・退職金額の原則4分の3に相当する部分は、差し押さえてはならない」と規定します(第152条)。 まさに、「八方ふさがり」の状況にみえますが、多くの企業では住宅ローン等の貸し付けを行っています。これは、どういうことなのでしょうか。 実は、裁判所は「全額払の原則が適用されるのは一方的な相殺であり、合意による相殺は法に反しない」という立場を採っています(日新製鋼事件、最判平2・11・26など)。 会社側の対策としては、まず「賃金控除協定」のなかに、住宅ローンの返済に関して明確に定めておくようお勧めします。次に、貸付を行う際に、「本人から同意を得ている」点を後から証明できる形を整えておくのが肝要です。 「貸付金制度においては退職時の退職金等からの返済の義務を明記し、これを前提とした利用申請書としておくこと、退職に際しては本人から相殺の依頼書をもらうこと」等の措置が考えられます(櫻井稔「退職・解雇の理論と実際」)。
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