|
判例 打切補償払っても解雇できず (2013年7月号より抜粋) | |
|
||
傷病者の雇用安定を優先 労基法と労災保険法で取扱い違う 業務上の傷病で休んでいる従業員は、労基法に基づき原則解雇できません(19条)が、例外として「打切補償(81条)」の規程が置かれています。しかし、傷病補償の役割は、実態として大部分が労災保険により肩代わりされています。裁判所は、「打切補償の規定は、空文化している」とも解釈できる注目すべき判断を示しました。 S大学事件 東京地方裁判所(平24・9・28判決) 今回は、ちょっと専門的な内容になります。しかし、「業務上の傷病で休んでいる従業員は、症状が回復しない限り、解雇できないのか」という興味深い問題を取り扱います。 まず、無味乾燥な印象を免れませんが、関連条文を列挙します(一部内容を加工しています)。
普通、業務上災害が起きて3年も経てば、ケガ等が治るか症状が固定します。しかし、なかにはいつまでも症状が治らない状態が続くことがあります。 この場合、2とおりの可能性があります。第1は傷病等級3級以上に該当するときで、労働基準監督署長が傷病補償年金の支給決定を行います。第2は、傷病等級に該当しないときで、休業補償給付の支給が継続します。 傷病補償年金が支給されれば、「打切補償を支払ったとみなす」ので解雇できます。しかし、「傷病補償年金の支給決定を行わないと、長期にわたって解雇が制限されることになる。20年以上支給決定が行われない例もあるという」(井上浩「最新労災保険法」)。 前置きだけでほとんど紙幅が尽きかけていますが、本事案では、従業員は頸肩腕症で労災認定を受け、傷病補償年金の支給決定が行われないまま、3年が経過しました。業を煮やした会社側は、労基法の打切補償(平均賃金1200日分、1629万円余)を支払い、解雇するという手段に訴えました。 これに対し、東京地裁は、本人は労災保険から給付を受けていて、労基法第81条を適用する前提条件である「労基法第75条の規定による補償(労災保険ではなく、会社が平均賃金の60%を自己負担で支給)を受ける労働者」に該当しないので、打切補償の対象から除外されるという判断を示しました。判決文では、「会社は保険料の支払義務を負っているだけで、補償の長期化による負担の軽減を考慮する必要はない」と述べています。 本件は控訴され、さらに争われる模様で、判断が確定したわけではありません。実務的には、目が離せない事案といえます。
|
||
労務相談と判例> 労災、通勤災害の相談 |
Copyright (C) 2013 Tokyo Soken. All Rights Reserved