判例 連絡義務を怠っても解雇は無効 (2013年8月号より抜粋)  
   

 

 
 

試用期間中の休職者 復職を促す努力つくさず

本事件は、受動喫煙問題を契機として、労使間の不信が高まり、解雇(留保解約権の行使)に至ったものです。煙害で体調を崩した従業員(試用期間中)は、休職期間中、会社への連絡をおざなりにしていました。社長はそれを「奇貨」として、本採用拒否の決断を下しました。裁判所は、従業員の「未成熟な対応」を指摘しつつ、解約権行使は無効と判示しました。

R社事件 東京地方裁判所(平24・8・23判決)


受動喫煙問題の抜本的改善を図る安衛法改正案(昨年後半の国会では審議未了で廃案)は、現時点では、国会再上程の見とおしが立たない状況ですが、長期的には、受動喫煙者側の権利が拡充されるすう勢にあるといえます。

しかし、本事件の原告Aさんの対応は、ややエキセントリックといわざるを得ません。試用社員として入社し、1ヵ月が経過した頃、B社長に対して、「体調の異変を訴えるとともに、社長のたばこの煙が原因なので、対策を講じるよう求めた」のです。

分煙の必要性は、B社長も知識としては知っていたでしょう。しかし、試用社員から遠慮会釈なく、たばこの害を指摘されたら、「カチン」と来るのも当然です。

社長は、退職・解雇・1ヵ月の休職の3つの選択肢を示し、Aさんは休職に同意しました。休職が始まった当初、専門医の診察予約が取れたことを会社に連絡しましたが、B社長から「けんもほろろ」の対応を受けたため、その後は約1ヵ月無連絡状態が続きました。B社長はもっけの幸いと「本採用拒否」を通告し、裁判に発展するという経過をたどりました。

実務的にいえば、これほど突出したケースは少ないでしょう。しかし、労働条件をめぐって労使の意見が対立するなか、不満を感じた従業員が「連絡なしに欠勤を続ける」といったトラブルはよく耳にするところです。

たとえば、パートに雇止めを通告したら、怒り心頭に発したパートが無断欠勤した場合、会社としてどういう対応を採るべきでしょう。そのまま雇止めして、果たして裁判で勝てるのでしょうか。

本事件で、裁判所は「Aさんの対応は、使用者との信頼関係を失わせるものであるばかりか、社員としての協調性や基本的なコミュニケーション能力にも疑念を生じさせるものであって、解約権行使の趣旨・目的に照らし、『社員として不適格』と評価するのが相当」と厳しい判断を示しました。

その一方、「B社長は使用者の責務としてより積極的に分煙措置の徹底を図り、就労を促す選択肢もあることに思いを致す必要があった。ところが、Aさんを疎ましく思うあまり、連絡面での不備が認められるや、間髪を入れず、解雇通知を発した。以上のような判断はいかにも拙速というほかないものであって、解約権行使は無効である」と結論付けました。

たとえ、従業員側に大人気ない対応があっても、会社としては「復職に向けた努力を尽くしたうえで最終決断を下すべき」という教訓を読み取ることができます。

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