通勤災害と労働基準法 (2013年9月号より抜粋)  
     
 

通勤中のケガで従業員が長期入院するが業務上災害とどこが違うか

 

Q

従業員が通勤災害に遭って、長期の入院が予想されます。通勤災害で休んだときは、「出勤したとみなす」必要がないので、翌年、年休が発生しないこともあるといいます。この場合、自己都合で1日でも休めば、欠勤控除の対象になるのでしょうか。

 

 
 

通勤災害の場合、年休・保険給付の待期期間で不利に

業務上災害と通勤災害は、どちらも労災保険から給付を受けることができ、補償内容もほぼ同様です。このため、従業員のなかには、両者の区別をあまり明確に意識していない人も少なくありません。

しかし、法律の規定上、次の3点が異なるので注意が必要です。

第1が、お尋ねにある年休の取扱いです。年休は、前年度(最初は6ヵ月)の出勤率が8割以上の場合、権利が発生します。労基法では、出勤率を計算する際、「業務上の傷病の療養のために休業した期間は出勤したものとみなす」と規定しています(労働基準法第39条第8項)。しかし、通勤災害にはついては何も触れていません。

法律上、通勤災害による欠勤は、通常の私傷病による欠勤と同様に処理して差し支えありません。欠勤が長期化した結果、当該年度の出勤率が8割を割り込んだときは、翌年度の年休は発生しません。ただし、年休の時効は2年なので、年度内に全部を消化しなかった場合、次年度に繰り越されます(昭22・12・15基発第501号)。ですから、翌年度、欠勤しても、繰越し分の充当は可能です。

第2に、待期期間中の扱いです。業務災害に対する「休業補償給付」(労働者災害補償保険法第14条)、通勤災害に対する「休業給付」(同第22条の2)は、ともに「療養のために賃金の支給を受けない日の第4日目から支給」されます。

ちなみに、通勤災害については「補償」という文字が使われていませんが、これは「通勤災害に関する保険給付は、労働基準法の災害補償責任を基礎とするものではない」ためと説明されています(労災保険法コンメンタール)。

ケガ等をした後、最初の3日間に対する労災保険給付はありません。業務上災害については、この期間は休業補償(平均賃金の60%以上)の対象になります(労基法第76条)。しかし、通勤災害に対する休業補償支払いは義務付けられていません。

第3に、保険給付にも些細ながら違いがあります。療養補償給付(業務上災害)と療養給付(通勤災害)、休業補償給付と休業給付等の内容は同じです。また、社会復帰促進等事業に基づく特別支給金(たとえば、休業時には賃金の20%相当の休業特別支給金が上乗せされます)についても、違いはありません。

しかし、通勤災害に限っては、療養給付を受ける労働者から、200円(日雇特例被保険者は100円)の一部負担金を徴収すると定められています(労災保険法第31条)。この200円の一部負担金は、休業給付から控除するとされています(労災保険法施行規則第44条の2)。

▲画面トップ

 

 
  労務相談と判例> 労災、通勤災害の相談

Copyright (C) 2013 Tokyo Soken. All Rights Reserved

東京労務管理総合研究所