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在籍出向元の義務 (2014年9月号より抜粋) | |
在籍出向先が賃金支払い事務を担当する場合に出向元の担当業務は? |
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Q |
当社はベンチャー企業ですが、取引先から技術者を出向させてほしいという依頼がありました。労働条件は出向先社員並、賃金はすべて取引先が支払います。出向期間中、労務管理はすべて取引先に「お任せ」でいいのでしょうか。出向社員について、出向元はどのような責任を負うのでしょうか。 |
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A |
賃金台帳等の作成義務がある 基本的なことですが、在籍出向と移籍出向の違いから確認します。在籍出向とは、出向元の社員という身分を残したまま(在籍のまま)、他社で就労する形です。移籍出向の場合、形式的には出向元との雇用関係は終了します。 在籍出向労働者については、出向元及び出向先の双方とそれぞれ労働契約関係(二重の労働契約関係)が生じます。この場合、「出向元、出向先および出向労働者三者間の取り決めによって定められた権限と責任に応じて出向元・先が労働基準法等における使用者としての責任を負う」ことになります(昭61・6・6基発第333号)。 ですから、「身分関係のみが出向元に残っている場合、出向元も賃金の一部について支払義務を負うもの等さまざまな形態」があり得ます(労働基準法コンメンタール)。 お尋ねのケースは、この「身分関係のみ」のタイプに属すると思われます。在籍出向社員は、出向元では休職という取扱いになります。出向元と出向先で、出勤日数や所定労働時間が異なる方がむしろ多いでしょう。 そうしたケースで、出向元の所定労働日・時間の規定を適用するのは不自然で、出向先に合わせるのが通例です。 ご質問にある出向社員についても、出向先の勤務時間を基準として時間外労働等が発生すれば、すべて出向先が賃金を支払うという契約と考えられます。 保険関係については、次のとおりです。まず、労災保険は賃金の支払者が出向元・先のいずれであっても、「出向先の組織に組み入れられて働くのであれば、出向先の労働者」として取り扱います(昭35・11・2基発第932号)。 雇用保険は、「主たる賃金支払者」を適用事業主とします。社会保険も、賃金支払いが出向先なら出向先で加入するのが普通です。 労働時間把握、賃金計算、保険料の徴収など、ルーティンワークは確かに「出向先」にお任せです。 しかし、「身分関係のみ」の場合でも、出向元として基本的な権利・義務関係は存続します。たとえば、労働者名簿・賃金台帳の調製義務は残ります。 その間、休職中で労働時間・賃金がゼロという事実は分かるようにしておく必要があります(病気休職者などと同じ)。 また、懲戒に関しては、一般には出向先のルールが適用されますが、退職・解雇という従業員としての地位喪失に関するものは、出向元の規定に基づき、出向元が権限を行使します。復職後は、出向先の勤続期間も通算して、年休を与える必要があります。
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