交通渋滞で遅刻した場合の賃金カット (2014年11月号より抜粋)  
     
 

バスの運行遅れを理由に遅刻を繰り返す従業員の賃金カットは?

 

Q

交通機関の乱れによる遅刻について、当社はこれまで黙認する形を採っていました。しかし、パートの中に、毎回、「バスが定刻に来なかった」と言い訳する人間がいます。早めに家を出る等の配慮を求めたいところですが、「10分、20分でもバスの遅れが証明される限り」、賃金力ット等は認められないのでしょうか。

 

 
 

賃金カット可能

死傷事故や異常気象で交通機関がマヒするのは、年に数回レベルの発生頻度です。しかし、交通渋滞でバスが遅れるのは、珍しい話ではありませんというより、毎日利用していれば、一定範囲で予想可能といってもよいでしょう。バス会社等も、その都度、遅延証明を行ったりしません。

バスの運行が順調なら、遅刻しないギリギリの時刻に家を出れば、従業員は義務を果たしたといえるのでしょうか。

5分、10分の運行の遅れがあれば、すべてバス会社の責任で、会社は賃金カットをできないのでしょうか。

この問題について、まず、民法の原則に従って考えてみましょう。民法第484条では、「弁済をすべき場所について別段の意思表示がないときは、(原則として)債権者の現在の住所において弁済をしなければならない」と定めています。

お金を借りた人は、貸した人の家等まで返しに行くのが普通です。これを労働契約に当てはめると、労働者は労務提供の債務を負いますが、その弁済をすべき場所は債権者(会社)の住所というのが基本です。

次に、民法第536条第1項では、「当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債務者は、反対給付を受ける権利を有しない」と規定しています。これを、「危険負担の債務者主義」と呼びます。

ただし、「債権者の責めによって債務を履行できなくなったときは、反対給付を受ける権利を失わない」という例外が設けられています(同条第2項)。

交通機関の遅れは、労使双方の責めに帰すことができない事由です。会社が専用バス等を手配し、それが故障したために出勤が遅れた等の事情がない限り、民法第536条第1項が適用されます。

ですから、一般論として、公共交通機関がストップしたため、従業員が出勤できなかった(労務の提供ができなかった)とき、反対給付(賃金)を受ける権利を有しません。

つまり、会社は賃金を支払う義務を負いません。衝突事故や台風・地震等のときは、「労務管理上の配慮」として、賃金カットを差し控えるケースが少なくないというだけの話です。

お尋ねのケースでは、たとえ、客観的に「バスの到着時間が10分、20分遅延した」ことが証明されても、賃金カットが可能です。従業員は、バスの遅延等も予想したうえで、契約で定めた時間どおりに労務の提供ができるよう手段を尽くす義務を負います。

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