判例 労災による障害と昇格差別 (2015年2月号より抜粋)  
   

 

 
 

能力不足で昇格できず 労災でも特別扱いは不要 

業務災害はくいわば「名誉の負傷」です。その功労に報いるため、会社はとこまで配慮する必要があるのでしょうか。本事件では、被災者が「自分が昇格できなかったのは、障害を理由とする差別」と主張して争いました。裁判所は、昇格には所定の能力要件を満たす必要があり、障害者はその基準に達していなかった(差別はない)と判示しています。

S社(障害者)事件 名古屋地方裁判所(平26・4・23判決)


まず、障害者を対象とする基本的な考え方・方向性を確認しましょう。平成28年4月1日から、改正障害者雇用促進法が施行されます。改正法では、「事業主は、賃金の決定その他の待遇について、障害者であることを理由として不当な差別的取扱いをしてはならない」と明記しています(第35条)。

ただし、「合理的配慮を提供し、労働能力等を適正に評価した結果として異なる取扱いを行うこと」は認められます(差別禁止・合理的配慮の提供の指針の在り方に関する研究会報告)。

これは通常の障害者が対象ですが、障害が業務上災害を原因とする場合、従業員感情に配慮して、さらに手厚い配慮が求められるでしょう。このため、会社は往々にして「腫れ物に触るような」取扱いをするケースが見受けられます。

しかし、「名誉の負傷者」であれば、職業生活全般にわたって「特別な待遇」を受ける権利を有するのでしょうか。

本事件で訴えを起こしたAさんは、工場の現業部門で働いていました。作業中に事故に遭い、労災の障害等級2級に該当する障害が残りました。

職場復帰後も、以前のような勤務に就くことはできず、メーカー提供の図面を会社専門の管理規程様式に書き写す等の業務に従事していました。営業譲渡に伴う所属変更等はありましたが、そのまま職業生活を全うし、定年退職を迎えました。そこで突然、「自分を主事に昇格させなかったのは障害を理由とする差別である」などと主張して、裁判を起こしました。

本人の心の内を推測すると、「この障害がなかったと仮定すれば、自分はきっと主事に昇格していただろう。障害の原因となったのは業務上の事故なのだから、会社は障害がなかったとして昇格人事を行う義務がある」といった感じではないでしょうか。

しかし、裁判所は「主事への昇格は基幹職務を遂行する能力の有無で判断されるものであって、年功序列による判断がされていたとは認められない。Aさんの業務内容からすると、その知識、経験、判断力等は限定されたものと認めざるを得ず、昇格要件を満たす能力を有していたと認められない」「主事に昇格しなかったのは、昇格要件を満たさなかったことに理由があり、障害を理由とする差別があったと認められない」とAさんの主張を退けました。

仮に障害の原因が業務上災害であっても、「能力を適正に評価した結果」、昇給・昇格人事で差が付いても、それは致し方がないという結論です。

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