判例 懲戒と人事権の行使は別個の問題 (2015年6月号より抜粋)  
   

 

 
 

「問題児」だが罪状軽微 降格と懲戒を別個に判断 

非違行為等があった場合、「懲戒」と「低査定」の2とおりの対応が考えられます。両者の関係はとう理解すべきでしょうか。本事件は、内科医長が病院の運営方針に従わず、執務態度にも問題が多かったケースです。病院は2つの処分を同時に行いましたが、懲戒は無効、人事権行使としての降格は有効という判決が下されました。

T医師会事件 東京地方裁判所(平26・7・17判決)


本事件は、高度専門職ならではの事件といえるでしょう。専門職の中には、知識・技能は並はずれて高いけれど、「人としてはどうかな」というタイプもいます。

訴えを起こしたAさんは、病院の内科医長のポストに座っていたのですから、医者としては優秀だったのでしょう。しかし、勤務態度にはクェスチョン・マークがつくようです。

判決文によると、「病院の院外処方推進の方針にあえて従おうとせず、かえって妨げる行為をとった」「心電検査室に大量の私物を持ち込み、退去指示に応じなかった」「多くの職員が集まる場で、十分な根拠なしに他の管理職にセクハラ行為があったと誹謗中傷した」などなどです。

病院としても、堪忍袋の緒が切れたのでしょう。諸般の事情を考慮したうえで、まず3カ月間の停職という懲戒処分を下し、停職1カ月後にさらに医長から医員へ降格させる人事を発表しました。

「二重処分禁止」ということばがありますが、これは1つの事案に対し、複数回処分を科すことをいいます。就業規則に違反する行為があった場合、それに対して懲戒処分を科し、さらにその行為を含めた本人のパフォーマンス全体を低査定し、賃下げ(および賞与の低査定)・降職降格等を行っても、前記の原則に違背しません。むしろ、企業社会では当たり前の対応といえるでしょう。

両者は、基本駒に独立した処分で、個別に合理性が判断されます。

本事件で、裁判所は次のように判示しました。まず、懲戒については、「処分の理由となるべき非違行為は、決して軽微な態様ではないとはいえ、病院内部にとどまる行為であり、患者に対して直接被害を与えるものでないことなどの諸事情に照らし、3ヵ月の停職処分をもって対応したことは、重きに失する」と判断しました。

一方、降格に関しては、「Aさんの言動は、管理職としての適格性に欠けるものであると評価されてもやむを得ない」「懲戒処分が無効であっても、降格処分は人事権を濫用したものと認めることはできず、有効である」と述べています。

ライン管理職であれば、そもそもこうした「問題児」が高いポストに就くこともなかったはずです。専門職ということで、昇格審査に甘さがあったのは確かでしょう。しかし、はばか「過ちては改むるにはばかることなかれ」です。直接的に懲戒に値する行為がない場合も、会社には、不適格な人物をポストから外す大幅な裁量権が認められているということです。

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