判例 セラピストの労働者性を否定 (2015年11月号より抜粋)  
   

 

 
 

委託契約であり解任を容認 顧客を選ぶ自由を有する

業務量が不確定な職種の場合、会社にとって労働契約より委託(請負)契約の方が有利です。このため、「労働者性」をめぐる裁判が多々起こされています。本裁判はセラピストが「自分は労働者」と主張したものですが、稼動日を自ら決定でき、施術の諾否の自由も有していた等の事情を総合的に考慮し、使用従属性が否定されました。

R東京事件 東京地方裁判所(平27・1・16判決)


「労働者かどうか(労働者性)」が争われる典型例としては、トラック持込み運転手や建設業の一人親方が挙げられます。

個人で運送業・建設業を行っている事業主はたくさんいます。しかし、同じ会社の仕事ばかりを受注していると、その会社で雇用されている労働者と区別がつかなくなってきます。業務上の災害が発生した後で、「自分は事業主ではなく、実態は労働者なんだから、労災保険の保護を受けたい」といって争いが生じます。

本事件は、温浴施設のセラピストが提訴したものです。セラピストのAさんは、B会社と業務委託契約を結び、B会社の施設内で施術を行っていました。委託といっても、働く場所は決まっていて、他の従業員と同様に出勤・退勤を繰り返す毎日でした。セラピストとして専門技能を発揮するほか、受付業務にも従事していました。

業務が継続している限りは、契約の名称が労働契約か委託契約かは、あまり問題視されていませんでした。しかし、B会社から「委託契約の解除」を通告され、Aさんは「委託契約の受託者」という身分の不安定さを痛感させられることになります。

労働契約であれば、「解雇権濫用法理」「雇止めルール」の適用があり、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」には、契約解除が無効となります。

そこで、Aさんは「実態は労働契約だった」と主張して、裁判を起こしました。しかし、裁判所は、以下のような理由に基づき、労働者性を否定しました。

  • 稼動日・時間はセラピストの希望に合わせてシフトが組まれ、当日の施術担当者は最も間隔の空いているセラピストから順番に割り振る方法により決定されていた

  • 中抜けをして一定時間シフトを外れることもでき、自ら施術の順序や方法を決めていた

  • 対価は分給で単価が約定された完全出来高制となっていた

  • 源泉徴収を受けず、消耗品等の費用について応分の負担を行っていた

委託契約という形を取ると、会社は仕事がない日に休業手当を支払う必要がなく、解雇権濫用法理の規制も受けず、社会保険料等の負担も発生しないというメリットを受けられます。しかし、実態は労働者なのに委託契約の締結を強要すると、後から裁判に発展するリスクがあります。

本事件の判旨等を参考にしながら、労働契約・委託契約のどちらが適切か慎重に判断する必要があるでしょう。

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