判例 勤務態度は復職の条件ではない (2016年1月号より抜粋)  
   

 

 
 

診断書があれば復職を拒絶できない

勤務不良の原因が、本人の資質の問題なのが、メンタル不調によるものか、判然としないケースが往々としてあります。本事件では、とりあえず私傷病休職扱いとすることで合意しましたが、復職時点で争いが再燃しました。裁判所は、「就労可能の診断書があれば無条件で復帰を認める」という覚書に反し、解雇は無効と判示しました。

V社事件 名古屋高等裁判所(平26・9・25判決)


本事件は、基本的には「勤務態度不良の問題社員」の処遇をめぐる事案です。

会社側は、いくら注意・指導しても従業員側に反省がみられないため、態度を硬化させます。これに対し、従業員本人は「精神不調」を訴えたり、社外労組(いわゆる「ユニオン」)の助けを求めたり、さまざまな対抗策を講じました。

争いの場は裁判所に移されましたが、その結果、会社側主張はことごとく退けられ、従業員側勝訴という判決が下されました。会社側敗訴の原因分析を通して、労務管理上の留意点を学びましょう。

本事件の原告Aさんの勤務態度について、裁判所も「上司の指示に反抗的で、上司や他の従業員との良好な人間関係を築くことができず、たびたび問題行動があった」と辛口の評価を下しています。

また、解雇紛争の2年前、職場の業務量が増加した際に、「うつ状態(適応障害)」という診断書を提出し、残業免除を受けたという経緯があります。

労使間の感情の軋轢(あつれき)は高まる一方でしたが、ある事件をキッカケに顕在化します。Aさんが突発的な業務依頼を「忙しいから」と拒絶する態度を採ったのです。

会社が「働く気がないなら辞表を提出する」よう求めたところ、Aさんはユニオンに相談すると同時に、欠勤を続けました。

労使が話し合った結果、「うつ病」の症状が出ていたこともあり、とりあえず「私傷病休職」扱いするという線で妥協が成立しました。覚書は、「Aさんは復職に当たっては診断書を提出し、会社は従来の労働条件で元の職場に就労させる」ことを骨子としていました。

約1年6ヵ月後に、Aさんは「就労可能」という診断書を提出し、復職を求めました。ちなみに、この間、会社は大口取引先に吸収され、社長も交代していました。

交代後の社長は、「休職以前の勤務態度について反省の弁を述べることがなかった」等を理由として、復職を拒み、解雇処分としました。

裁判所は、「解雇は、明らかに覚書の約束に反する」「社長は、『Aさんが真摯に過去の勤務態度を反省する場合に覚書は初めて効力を有する』というが、そのような限定は付されていない」等の判断に基づき、解雇は社会的相当性を欠き、無効と判示しました。

会社は、ユニオンと交渉する際には「診断書があれば無条件復帰」という条件で安易に妥協しながら、いざ復職を求められたら解雇に固執するという場当たりの対応を繰り返しています。これでは、裁判に持ち込まれれば勝ち目がないのは明らかでしょう。

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