減給の制裁の平均賃金の起算日 (2016年3月号より抜粋)  
     
 

規則違反から懲戒までタイムラグがある場合の平均賃金起算日はいつか?

 

Q

規律違反の従業員に制裁処分を科そうとしたところ、本人がなかなか事実関係を認めません。最終的に、初犯ということもあり、減給の制裁に留めるという結論になりました。しかし、関係者への事情の聞き取りや、懲罰委員会での議論等に時間がかかり、既に事件発生から3ヵ月が経過しています。この場合、平均賃金はいつを起算日とするべきなのでしょうか。

 

 
 

制裁の意思表示の到達日を起算日とする

懲戒処分には、譴責(けんせき)から懲戒解雇に至るまで、様ざまな種類があります。しかし、労働基準法上には、「減給の制裁」に関する規定が存在するのみです(第91条)。もちろん、減給制裁以外の制裁手段を用いることも、「公序良俗に反しないかぎり」禁止されていません(昭22・9・13)。減給の制裁に関しては、@1回の額が平均賃金の半分以下、A総額が1賃金支払期の賃金総額の10分の1以下という条件を満たす必要があります。

「1つの事案」については、平均賃金の半分が上限となります。

前記Aの規定は、複数以上の事案がある場合に適用されます。複数の減給制裁の「合計額」を、賃金総額の10分の1以下に抑えるべきという意味です。

経営者の中には、「平均賃金の半分という上限は、なまぬるい」とおっしゃる方もいます。しかし、罪状が重いときは出勤停止等の1等重い制裁を科すことにより、対応すべきです。

平均賃金は、「算定すべき事由の発生した日以前3ヵ月間の賃金総額を、その期間の総日数で除して」算出します(労基法第12条)。条文の文言上は、発生日「以前」ですから、事由が発生した当日を含むと読むのが素直でしょう。

しかし、公式解釈(労基法コンメンタール)では、「事由の発生した日の前日」を起算日とするという立場を採っています。大部分のケースでは事由が発生するのは所定労働時間内ですから、それ以降、労働が中断すれば賃金が全額支払われない結果となります。

当日を起算日とすると、平均賃金が不当に低くなるおそれがあります。このため、前記のような解釈が採られたものです。

ただし、「賃金締切日がある場合には、賃金締切日から起算する」(同条2項)という規定があるので、実務的にはこちらの規定に従うことになります。

いつを起算日にするかについては、「行為日(事件発生日)」「賃金支払日」など色々な意見があり得ます。

しかし、お尋ねのケースでは、事件が発生してから懲罰委員会が結論を出すまで3ヵ月が経過しています。起算日の取り方によって、平均賃金の額にも相当程度の差が出る可能性があります。

この問題に関し、解釈例規(昭30・7・19基収5875号)では、「減給の制裁の意思表示が相手方に到達した日をもって、事由発生日とする」と述べています。ですから、その前日からみて直前の賃金締切日が起算日となります。

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