判例 精神不調で派遣先の責任も認定 (2016年4月号より抜粋)  
   

 

 
 

詳しい病状を把握せず 派遣元任せで配慮欠如

メンタルヘルス不調を発症した従業員に対して、使用者が負担軽減等を図るのは当然の義務です。しかし、派遣労働者に関しては、派遣先と派遣元のいすれが責任を負うのでしょうか。本事件はうつ病で自殺した労働者の遺族が派遣先・元の両方を訴えた事案ですが、裁判所は派遣先にも安全配慮義務違反があったと判断しました。

T社ほか事件 東京高等裁判所(平27・3・27判決)


派遣は、「雇用と使用が分離した形態」といわれます。雇用主は派遣元(人材ビジネス会社)ですが、指揮命令するのは派遣先(顧客企業)です。

このため、派遣元だけでなく、派遣先に対しても、労働基準法・労働安全衛生法法上等の責任を一定範囲で課す根拠規定が設けられています(派遣法の読替規定)。

安全配慮義務は、労働契約法第5条で定められています。労契法に読替規定は存在しませんが、安衛法に準じて、派遣先の責任を認める解釈が採られています。

派遣先の工場設備等が原因でケガをした場合など、派遣先の責任は明白です。しかし、うつ病や過労死等になると、どちらが管理上の責任を負うのか、難しい判断が求められます。

本事件は、うつ病で自殺した派遣労働者の家族が、派遣先・元の双方に対して、予防措置を怠ったと訴えたものです。

事件の経過を追ってみましょう。派遣労働者Aさんは、派遣会社B社の派遣社員として、派遣先であるC社で働いていました。

元々、不安障害や不眠症の症状があったのですが、C社に勤務するようになって2年が経過する頃から、うつ症状がみられるようになり、抗うつ剤や抗不安剤等の投与を受けるようになりました。

休暇や早退が連続したため、B社・C社の責任者がメール・面談で体調確認を行ったところ、Aさんは「良いときも悪いときもあるが、以前より症状は改善し、薬は服用していない」などと状況を説明していました。

裁判所は、B・Cの両社(および責任者)について、「Aさんが、うつ病に罹患し自殺に至るほど重篤な状態にあったと認識できたとまではいえない」と前置きしたうえで、次のように判示しました。

「(しかし、)両社はAさんの体調不良は認識できていたのであるから、単に調子はどうかなど抽象的に問うだけではなく、より具体的に、通院先の病院・診断・処方などを把握し、必要があれば産業医等の診察を受けさせるなどしたうえで、体調管理に配慮し、指導する義務があった」というべきであり、「安全配慮義務を尽くしていなかったと認めることができる」。

一審(静岡地判平26・3・24)では派遣元の責任のみを認めましたが、本判決では派遣先の義務違反も指摘し、両社に損害賠償を命じています。派遣先の会社も、自分の管理下で(目の届く場所で)働いているのですから、「全く気づきませんでした」といって責任回避できる問題ではないと自戒すべきでしょう。

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