判例 業績連動報酬の請求権を否定 (2016年6月号より抜粋)  
   

 

 
 

解雇無効で支払いを請求 具体額を確定できない

元従業員が解雇無効を争い、主張が認められたとします。会社は「不当解雇中の賃金」をさかのぼって支払う義務を負いますが、本事件では、その範囲が論点になりました。最高裁は、IPC報酬(業績連動型報酬)について、「具体的金額の算定方法が定められていない」ため、遡及支払いの対象に含まれないと判示しました。

C証券事件 最高裁判所(平27・3・5判決)


民法第536条では、一方債務の履行不能の場合の「反対給付請求権」を定めています。会社が労務の受領を拒んだ場合、従業員は労務を提供しなくても、賃金を請求することができます。

ですから、解雇無効の裁判で、会社側が負けると、「解雇されてから無効判決が出るまで」の間の賃金を支払う義務を負います。

本事件は、外資系証券会社が舞台です。退職勧奨・自宅待機を経て解雇された元従業員が裁判を起こしました。解雇の有効性を争うとともに、違法な退職勧奨により「インセンティブ・パフォーマンス・コンペイセイション・アワード(IPC賞与)」を受領できなかったとして、その補償を求めました。

IPC賞与とは聞き慣れない用語ですが、「固定額が毎月支給される基本給とは別に、年単位で、会社及び従業員個人の業績等の諸要素を勘案して支給の有無・金額が決定される」賃金項目ということです。

日本企業の中には、大企業を中心として、「業績連動型賞与」という仕組みを導入しているところもあります。こちらは、最低支給月数を設定し、経営指標と連動して、賞与を決定する計算式が詳細に定められています。IPC賞与は、業績連動型といっても、こうした日本型とは異なるようです。しかし、広い意味では「賞与」と似通った性格を有します。

賞与(一時金)等が「出勤率、出来高・査定などにより異なって算定される場合、最もがいぜん蓋然性の高い基準を用いて算出すべき」と考えられています(菅野和夫「労働法」)。この蓋然性(可能性)をめぐって、過去の判例では、さまざまな判断が下されています。

本事件は、IPC賞与という「外資系独特の仕組み」であるために、裁判所の判断も割れました。第2審(東京高判平25・1・31)は、「上司が具申したであろう米ドル建て金額」として日本円1000万円超の支払いを命じました。

しかし、最高裁は過去の判例(福岡雙葉学園事件、最判平19・12・18)を引きつつ、「賞与の支給を受け得る資格を有していても、具体的な請求権が直ちに発生するものではない」と述べました。そのうえで、「該当年度のIPC賞与の支給の実施および具体的な支給額またはその算定方法に係る決定はされていない」として、請求権を否定しました。

ただし、日本の中小企業等では「労使の合意や慣行」が存在し、裁判所もそれに基づいて一定の支払いを命じた例が多数ある点は注意が必要です。

▲画面トップ


  労務相談と判例> 賃金、賞与、退職金の相談

Copyright (C) 2016 Tokyo Soken. All Rights Reserved 

東京労務管理総合研究所