年休を使わせずに退職させられるか (2016年9月号より抜粋)  
     
 

年休消化を避けるために退職の意思表示から14日後に労働契約を終了?

 

Q

仕事の分担のことで従業員が不満を訴え、課長と口論になりました。当人は「残った年休(40日近く)をすべて消化したうえで退職する」と言っています。当社の就業規則では「退職の意思表示から14日後に労働契約は終了する」という規定があります。これを根拠に、退職日を早めることはできないでしょうか。

 

 
 

従業員の申し出日の変更はできない

年休の請求が可能なのは、「労働義務のある日(つまり、所定労働日)」に限られます。1か月の所定労働日数は20日強が一般的ですから、年休の残日数が40日ある場合、それを消化するには2ヵ月近くを要します。

会社側として「何とか退職日を早めたい」という気持ちは理解できます。大多数の会社では「14日後に労働契約終了」という規定を設けています。この意味を改めて確認し、貴社のアイデアが法的に可能か否か検討しましょう。

民法では、期間の定めのない契約に関して「当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。雇用は、申入れの日から2週間を経過することによって終了する」と定めています(第627条)。労働者が「明日から出社しません」と言っても、直ちに辞職はできません。しかし、会社側も、態度を明確にせず、「引き伸ばし戦術」を取り続けることは不可能です。雇用契約は、民法の規定により2週間後に効力を失います。

就業規則の規定は、会社側が不同意であっても「所定の日数が経過すれば、辞職が認められる」という趣旨です。

お尋ねのケースで、従業員は「申出当日の退職」を求めているわけではありません。年休の完全消化を念頭に、2ヵ月近く先の特定の日を退職日として指定しています。

会社側が「退職日を14日後」に変更したいといっても、強制権限はありません。本人の意思に反して「労働契約の終了日」を14日後と指定すれば、それは会社による解雇とみなされます。

民法の規定にかかわらず、労働基準法では、使用者側に対して「解雇予告」を義務付けています。

30日前に予告するか、30日分の平均賃金を支払うのが原則です(労働基準法第20条1項)。変則パターンとして、解雇予告と予告手当の併用も認められています(同条2項)。

お尋ねのケースを例に取れば、14日後に解雇すると予告し、16日分の平均賃金を支払うという対応も可能です。

予告手当の支払は、「解雇の日までに行われれば足りる」と解されています(労働基準法コンメンタール)。

ただし、注意が必要なのは、予告義務を果たしても、必ずしも解雇が正当化されるとは限らない点です。「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当な理由のない解雇は無効」とされます(労働契約法第16条)。

年休の消化は労働者の当然の権利です。「年休の請求を妨げるために、早めに退職日を設定する」というのは、到底、合理的な理由とは認められないでしょう。

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