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みなし労働時間と固定残業制 (2017年9月号より抜粋)

裁量労働制の対象者に払う手当を月単位の定額で定めたいが問題あるか

 

Q 当社はベンチャー企業ですが、おかげさまで順調に業績も拡大しています。新商品の開発に従事する社員も増えてきたので、裁量労働制を整備したいと考えています。月額で固定残業手当を支払う方針ですが、平均の月間所定労働日数(月20.5日など)を基準として手当を決めて、問題がないでしょうか。

 

A 日単位で協定・支払が原則

 

裁量労働制には、専門業務型(労働基準法第38条の3)と企画業務型(同第38条の4)の2種類があり、その導入要件や仕組みに違いがあります。

 

専門業務型裁量労働制の対象業務は労働基準法施行規則24条の2の2等で定められていますが、その第1番目に「新商品もしくは新技術の研究開発または人文科学に関する研究の業務」が挙げられています。貴社では専門業務型を、導入することになります。

 

専門業務型は、原則として過半数労組(ないときは過半数代表者)と労使協定を締結することが条件となります。締結事項は、次のとおりです。

 

  1. 対象業務
  2. みなし労働時間数
  3. 業務遂行の手段・時間配分の決定を労働者にゆだねること
  4. 健康・福祉確保措置
  5. 苦情処理措置
  6. その他(有効期間、記録の保存)

 

みなし労働時間数については、条文上、「対象業務に従事する労働者の労働時間として算定される時間」という文言となっています。

 

貴社では、1ヵ月20.5時間という数字を用いて、「定額の残業手当」を支払うという案を検討中とのことです。

 

会社の公休日・祝日等の並びによって、各月の所定労働日数は5~6日の幅で変動します。しかし、月給制の場合、基準内賃金は固定です。

 

貴社の定額残業手当はみなし労働時間に基づく時間外割増賃金相当額ですから、基準外賃金に該当します。ですから、月額固定にする必然性はないのですが、裁量労働制を採る企業では、基準内賃金と同じように扱うところも少なくないようです。

 

しかし、裁量労働制で定める労働時間に関しては、「1日当たりの労働時間を協定」すべきものとされています(平12・1・1基発第1号)。月間の労働時間を「みなす」というスタイルは認められていません。

 

1日のみなし労働時間を9時間と設定した場合、1日当たり1時間の残業となります。月の所定労働日数が22日の月には22時間の時間外が発生しますが、その月に20.5時間分の割増賃金しか支払わないと、形式的には賃金の不払いが生じてしまいます。「他の月に多めの額を支払っているからよい」という理屈は通りません。

 

どうしても月払いにこだわるというなら、労使の話し合いが前提ですが、1日当たりのみなし労働時間を短めに(たとえば8時間55分)に協定したうえで、毎月22日分の手当を支払うといった形を採る方法も考えられます。