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判例 長期の成績不良者の解雇無効 (2017年9月号より抜粋)

理由は長期の成績不良 改善機会を与えず無効

 

長期にわたって成績が振るわない従業員に対し、堪忍袋の緒が切れた会社側が、大ナタを振るったとします。解雇理由はもちろん「成績不良」ですが、「それなら、なぜ今まで雇用を続けてきたのか」という反論が予想されます。今回ご紹介の判例では、「業績改善の機会を与えなかった」などとして会社側の解雇処分が権利濫用と判断しました。

 

N社事件 東京地方裁判所(平28・3・28判決)


 

会社が抱える戦力の中には、「常にベンチで控えているだけ」のような人材もいます。経営者・人事担当者も「神ならぬ」存在ですから、採用時の「眼鏡違い」のリスクを100%免れることはできません。しかし、よほどの問題がなければ、試用期間後に正社員に登用され、そのまま会社に在籍し続けるのが普通です。

 

本事件は、入社後、25年が経過した後に、会社が解雇という非常手段に訴えたものです。どこの会社の就業規則でも、「業務能率・成績が著しく不良のときは解雇する」等の規定を設けています。

 

しかし、4半世紀が過ぎたのち、「業績不良」というカードを切るのは、いささか遅きに失した感を否めません。「なぜ、今になって」という疑問に適切な回答を出せなければ、会社側が勝訴するのは難しいといわざるを得ません。

 

本事件で、本人と会社間のあつれきが飽和点に達するまでの、経過をたどりましょう。

 

原告従業員Aさんは昭和62年入社ですが、平成10年に不眠症により休職し、同11年、残業を制限して復職しました。その後、いくつかの部署を異動した後、平成24年には残業代不払いをめぐる訴訟を起こしました。

 

会社は、同年6月に退職勧奨を行いましたが拒否されたため、「業績不良」を理由とする解雇を申し渡しました。

 

裁判所は、まず「業績不良」の程度について判断しています。会社では、5段階の相対評価を行い、Aさんの直近のランクは、直前1年が最低、その前4年間は下から2番目という状況でした。

 

確かにかんばしくない状況です。しかし、同様の成績の人は他にもいるはずで、判決文では「会社評価はあくまで相対評価であるため、低評価が続いたからといって、解雇の理由に足りる業績不良があると認められるわけではない」と述べています。

 

結論的には、「25年にわたり勤務を継続し、配置転換もされてきたことから、現在の担当業務で業績不良があるとしても、職種転換・降格や、一定期間内に業績改善が認められなかった場合の解雇の可能性をより具体的に伝えたうえで業績改善の機会を付与する等の手段を講ずべき」であり、解雇は権利濫用で無効と判示しました。

 

本事件は、退職勧奨の拒否者に対して、「二の矢」として成績不良に基づく解雇を宣告したものです。この方法が常に有効なら、労働者の地位は著しく不安定なものになります。解雇に至った心情は理解できますが、会社側敗訴も致し方のないところでしょう。