判例 雇い入れ時の安全教育の不備と労災 (2017年10月号より抜粋)
外国人がケガで賠償請求 安全配慮義務は尽くしたと判断
外国人の派遣労働者となると、意思疎通の難しさはいうまでもありません。本事件で、ブラジル人労働者は薬指切断という事故に遭い、派遣元・先の安全配慮義務違反が問われました。第2審では、雇入れ時の安全衛生教育など、派遣先(受入れ企業)の周到な管理体制が評価され、配慮義務違反は否定されています。
I機工ほか事件 名古屋高等裁判所(平27・11・13判決)
人身災害が発生した場合、会社はハード・ソフト両面から安全配慮義務違反を追及されます。ハードとは機械の安全設計面での配慮等です。ソフトとは、雇入れ時の安全衛生教育の実施等を指します。
派遣労働者しかも外国人となると、ソフト面での対応が不十分という会社も少なくないでしょう。
基本事項を確認しておくと、派遣労働者の場合、雇入れ時の安全衛生教育は「第一義的」には派遣元が負うとされていますが、「実務的には」(特に製造派遣の場合)、派遣先に委託して実施されるケースが多いとされています。
本事件で事故に遭ったのはブラジル人の派遣労働者Aさんです。派遣会社B社に雇用され、C社で働いていました。
旋盤作業中に加工品が詰まったため、それを除去しようとしましたが、機械の誤使用(排出チャックを緩めるボタンと、排出チャックを左右に移動させるボタンの押し間違い)により、右手環指(薬指)切断という障害を負いました。
Aさんは、派遣元B社と派遣先C社双方に対し、不法行為に基づく損害賠償を求めて、裁判を起こしました。
1審(名古屋地裁岡崎支部判平27・5・26)では、派遣先の安全配慮義務違反を一部認めました。
再び基本事項の確認ですが、派遣社員が現場で事故に遭遇した場合、安全配慮義務違反を問われるのは、基本的に派遣先です。安全衛生教育等に不備があった場合、派遣元も責任を負いますが、本件では、派遣先が教育を実施していました。
1審では、機械は片手操作ではなく両手操作でなければ作動しないように設定しておく義務があったと述べました。また、「ポルトガル語を話せる人間がおらず、意思が100%伝達されていなかった点」も問題とされました。
しかし、2審では、「加工品が詰まった際には、上司(または同等の技能者)を呼ぶよう指示がなされていた」こと、「安全教育時には派遣元B社の通訳を同伴させていた」こと等を指摘し、派遣先の配慮義務違反を否定しました。
このほか、派遣先C社は、大手会社だけあり、安全教育(テストも実施)、管理体制がしっかりしていただけでなく、ポルトガル語の訳文を付したテキスト等も準備されていました。
本件では、労働者側の主張は斥けられました(控訴審判決が確定)が、これだけ周到な安全管理を行っている中小企業は多くないでしょう。安全衛生教育をはじめとして、派遣労働者を使用する際には、十分な事前対策が求められます。