判例 清掃作業転換は継続雇用拒否に当たる (2017年11月号より抜粋)
高年齢法の趣旨にそぐわない 実質的な継続雇用拒否
経過措置付きですが、高年法で「65歳まで希望者全員再雇用」が義務付けられています。このため、「著しく低水準の労働条件」を提示し、暗に退職を促す企業も、現実には見受けられます。本事件では、事務職に対し清掃業務への転換という条件が示されましたが、裁判所は「高年法の趣旨に反し」、不法行為責任を負うと判示しました。
T自動車事件 名古屋高等裁判所(平28・9・28判決)
高年法の経過措置では、平成28年4月1日から、希望者全員継続雇用の最低年齢が「62歳」に引き上げられています。本裁判を起こした従業員Aさんは、「61歳までの継続雇用」が義務付けられている年代でした。
「希望者全員」ですから、その中には、往々として会社の立場からは「歓迎すべからざる」高齢者も含まれています。表立って継続雇用のろう拒否はできませんが、色々と策を弄する企業が出てきても、不思議ではありません。
高年齢者法に関する厚生労働省のQ&Aの中には、「微妙な言い回し」のものが含まれています。
「高年齢者の安定した雇用を確保するという趣旨を踏まえたものであれば、最賃などの範囲内で、労働時間、賃金、待遇などに関して、労使間で決めることができる」
「高年法は、定年退職者の希望に合致した条件での雇用を義務付けるものではなく、合理的な裁量の範囲の条件を提示していれば、結果的に労働者が継続雇用を拒否したとしても、違法ではない」
Aさんを雇用する会社(B社)は、こうした解釈も参考にしたのでしょうか、再雇用に際して提示した労働条件は過酷ともいえるものでした。
時給1,000円の4時間勤務で、業務内容は「シュレッダーごみ袋交換および清掃、(略)再生紙管理、業務用車掃除、清掃(フロアー内窓際棚等)」というものでした。ちなみに、退職前は、生産管理部に所属し、デスクワークに従事し、主任の肩書(資格)も有していました。かなりあからさまな「いやがらせ」という印象も受けます。
しかし、第1審(名古屋地岡崎支判平28・1・7)では、厚労省Q&Aに近い形で、「本人が拒否したのだから、違法でない」という判断が下されていました。
これに対し、高裁(本裁判)は「B社は巨大企業であるのに、他に提示できる事務職があるか否かについて十分な検討を行ったとは認めがたい。あえて屈辱感を覚えるような単純業務を提示して、定年退職せざるを得ないように仕向けた」疑いがあると述べ、高年法の趣旨に反し、債務不履行・不法行為責任を負うと判示しました。
いわゆる「追出し部屋」に配置転換し、退職に追い込むのと同じやり方ですから、高裁の判断の方が、世間一般の常識に近いといえそうです。
ちなみに、低賃金(短時間労働)については「賞与も含め年収148万余円は、年金の無収入期間の発生を防ぐという趣旨に照らし容認できない水準ではない」という見方が示されています。