判例 パートと正社員の処遇格差は合法 (2017年12月号より抜粋)
処遇に差異は仕方なし パートの役割等は限定的
正規・非正規社員間の格差が不合理かとうか、裁判所が下す判断にはバラつきがあるようです。本事件は、地下鉄の売店業務に従事するパートが労働契約法第20条を根拠に訴えを起こしたもので、世間的にも注目を集めました。しかし、支援労働組合等の期待を裏切り、「長期雇用を前提とする」処遇格差を大部分認容する判決が下されました。
M社事件 東京地方裁判所(平29・3・23判決)
政府は、「同一労働同一賃金の実現」(正規社員と非正規社員の格差是正)に向け、法整備を進めています。
現行法体系では、パート労働法・労働契約法・派遣法の中に、均等・均衡待遇に関する規定が設けられています。
有期契約労働者と正社員の格差に関しては、労契法第20条に基づいて処理されます。同条は、平成25年4月に施行された新しい規定です。いくつか注目される判例が出されていますが、事案によって裁判所の判断には相当程度の違いがみられます。
本事件は、地下鉄の売店で働くパート社員が賃金差別の是正を求め、平成26年5月に提起したものです。改正労契法施行から間もない時期で、労組が強力に支援したため、脚光を浴びました。しかし、裁判所は原告側主張の大部分を退けました。
労契法第20条では、「期間の定めがあることを理由とする不合理な労働条件の設定」を禁じています。比較の対象となるのは、「同一の使用者と労働契約を締結している無期契約労働者」です。
同じ「無期契約労働者」といっても労働条件はさまざまですが、どの無期契約労働者を対象とするかについて、解釈例規では言及していません。学説では、「職務の内容、人材活用の仕組みその他の事情に照らして同様の労働条件とされるべき」労働者グループとみる見解が有力なようです(荒木尚志ほか「詳説労働契約法」)。
本事件の事実認定によれば、正社員の中にも「①多様な業務に従事している正社員」と「②売店業務に従事する正社員」が存在していました。
原告側は、当然のことながら、「②の正社員」を基準として、格差の是非を判断するよう求めました。しかし、裁判所は「正社員の大半は多様な業務に従事するのであって、ごく一部の正社員が例外的に売店業務に専従している」だけだから、「①の正社員」を比較対象とすべきという立場を取っています。
そのうえで、賃金制度・住宅手当・賞与・退職金に関して、「長期雇用を前提とする正社員」を一定程度優遇するのは不合理とはいえないと判示しました。違法と認められたのは、わずかに早出残業手当の差異のみです。
正規社員・非正規社員の格差と一口にいいますが、比較する従業員グループをどのように区分する(切り分ける)かで、結論に大きな違いが生じます。本事件は、原告側が控訴しているので、上級審の判断が待たれるところです。